512部分:第七十二話 来たるべき戦いその五
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第七十二話 来たるべき戦いその五
「あの男こそがだ」
「あの、一体」
「あの方がどうかしたのですか?」
「あっ、いや」
ここで自分の言っていることに気付いて言葉を慌てて引っ込めた。そうして何とか表面を取り繕ってそのうえで彼等に応えるのだった。
「何でもない。気にしないでくれ」
「左様ですか」
「何か御気分が優れないようですが」
「何でもない」
彼にしては珍しい取り繕いであった。サンドイッチを持っているその手が微妙に震えている。それを見ればすぐに察しがつきそうなものだが幸い今は誰も気付いていなかった。
そして彼はその幸運のまま。さらに言うのであった。
「それでだが」
「はい、それで」
「どうされたのですか?」
「城戸光政氏だな」
話をそこに戻すのだった。
「あの人のことだな」
「はい、そうです」
「あの人のことです」
まさに彼のことだとまた述べた白銀の二人だった。
「確かお子さんはおられませんね」
「御子息もお嬢様も」
「確かに娘はいない」
ここでまた妙なことを言うアイオリアだった。
「しかしだ」
「しかし?」
「また何か」
「息子は。そう」
また半ば無意識のうちに言おうとしている自分に気付いた。それでその言葉を慌てて引っ込めて再び平静を取り繕う為に努力するのであった。
「いや、いない」
「そうですよね。まだ独身ですし」
「それを考えれば立派な人ですよね」
青銅の者達はそう思っているのだった。
「あくまで世の為人の為」
「贅沢もしないで女にも興味がないっていうのは」
「そうだな」
やはり何かを隠しているかの様な面持ちのアイオリアだった。
「それはな」
「ああいう人がもっといれば」
「世界は平和になるのに」
「全くだぜ」
「いや」
また言ってしまったアイオリアだった。
「あの人が何人もいればそれこそだ」
「それこそ?」
「それこそとは?」
「地球に人類が増え過ぎる」
ついつい言葉が漏れてしまっていた。
「大変なことになってしまう」
「あの、やはり何か」
「御存知なのでしょうか」
ダンテとダイダロスが彼に怪訝な顔で問うた。
「アイオリア様は」
「何かを」
「いや」
しかし自分ではそれは必死に否定するのだった。
「それはない」
「だといいのですが」
「いえ、本当に」
「何もない。それでだ」
そういうことにしたうえでまた話を元に戻した。
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