番外編 残された姫君達
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値というものを理解していた。
……そして理解していたがゆえに。のし掛かる重圧に苦しむ余り、他者との交流を拒み続けていた。
それを解消するべく、「同世代の友人」を用意すべきという声が上がり。辻霧家が従える幾多の下級武家の中から、友人役の適任者を探し出すことになったのである。
だが、実際にマイの友人候補として送り出されてきたのは。これを好機に辻霧家と懇意になり、あわよくば婿として迎えてもらおう――という下級武家らの息が掛かった子息ばかりであり。
その卑しい下心を敏感に感じ取ったマイは、さらに人間不信となり自分の屋敷に閉じ籠るようになってしまった。
そんな折。
屋敷の窓から外の景観を眺める日々を送っていたマイは、ある日――桜が舞う春空の上で、優雅な曲芸飛行を見せる一機の民間飛行機を目撃する。
翼が空に描く美しい曲線。機体を彩るように、風に煽られ舞い飛ぶ桜。その演出に魅入られたマイは連日、食い入るようにその曲芸飛行を見つめるようになった。
誰に対しても無感情で、どんな高価なものにも興味を示さなかった娘が、見たことのない溌剌とした表情で曲芸飛行に熱中している。そんな光景を目撃した、父である辻霧家当主は、曲芸飛行のパイロットを調査するよう部下に命じた。
――やがてその実態が、当時十三歳の少年飛行士であることが発覚したのである。
少年飛行士の名は、竜造寺カケル。
辻霧家が従える数百の下級武家。その一つである竜造寺家の次男坊であった。
彼は幼少期から、武家の出身でありながら、下町の平民と同じ遊びに興じる変わり者として知られていた人物であり。
平民の友人達を喜ばせるために少年飛行士となっていたその当時でも、「武家の者でありながら、曲芸飛行などという遊戯に現を抜かすうつけ者」として他の武家からは白い目で見られていた。
そんな立場である上、竜造寺家が下級武士の中でも最下位であるということもあり、マイの友人候補を選ぶ際には歯牙にも掛けられなかったのである。
――やがて、カケルは辻霧家に招かれマイと対面。周囲が「なぜあんなうつけ者が」と妬む中、屈託無く友人として接しようとする彼の姿に、マイはかつてない表情で懐くようになった。
今までの友人候補とは違う。誰の息も掛かっていないし、下心も感じない。そんな人間に出会ったのはこの時が初めてであり、マイは瞬く間に彼に夢中になってしまうのだった。
だが、それから三年。戦況が悪化し、帝国で徴兵制度が施行されることが決まった瞬間。カケルはすぐさま、コスモソードのパイロットとして徴用されることになってしまった。
理由としては、まず優先的に徴兵される「武家の次男若しくは三男」に該当していること。次に、曲芸飛行とはいえ既に三年以上の飛行経験があり
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