最終話 みんなの笑顔
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ス三等軍曹……! あなたは……!?」
「ワシのことは、どうでもよいでしょう。……今はただ、あやつらの選択を受け入れてくだされ。ラオフェンと、ハリオンの選択を」
「……!?」
彼女達の振る舞いを咎めようとするゼナイダを、いつになく神妙な面持ちのジャックロウが制止する。その異様な雰囲気と、彼の口から出てきた言葉に、若き少尉はさらに目を剥いた。
ハリオン――とは、ハリオン・ルメニオンのことか。一介の三等軍曹が総司令官を呼び捨てとは、一体どのような了見だというのか。
矢継ぎ早に脳裏を駆け巡る疑問に混乱するゼナイダ。そんな彼女を一瞥した老兵は、どこか儚げな表情で、青空を翔ける赤い鳥を見上げた。
(――カケルよ。お前が振り撒く笑顔はやはり、戦場には似合わんのう)
機械仕掛けの赤い鳥は、青い鳥の猛攻を鮮やかにかわし――優雅に空を走る。まるで、曲芸のように。
◇
――UI戦争が激化し、中枢惑星アースグランドから徴兵制度が施行される頃。
その星の一国家「ジャパン・エンパイア」の都市に、竜造寺カケルという少年飛行士がいた。
巷で有名な曲芸飛行士として知られ、戦争に苦しむ人々を励ますために飛ぶ彼の笑顔は――荒んだ時代に生きる人々に、前を向くための活力を齎してきた。
そんな日々を続け、いつか戦争が終わる時まで、みんなと一緒に笑い合えれば。少年は、いつもそれだけを願い、操縦桿を握り続けた。
――軍部にその操縦技術を見出され、徴兵の対象とされるまでは。
半ば強制的に軍に組み込まれた彼は、それでもなお理想を捨てず。戦争を終わらせるために戦えば、きっとみんなを笑顔にできると、そう信じてコスモソードに搭乗した。
そして初陣で――彼は同期全員と所属部隊を喪った。
ただ一人生き延び、単機でその全ての仇を討ってみせた彼は、直ちに総司令部へ召喚され――自らの名を捨てることを強いられた。
職業軍人達を軒並み虐殺した尖兵の大群を、元曲芸飛行士の現地徴用兵に屠られた――とあっては、軍部の威信に関わるためだ。
そして、公的に戦死扱いとなった「竜造寺カケル」に代わり――総司令官ハリオン・ルメニオンに、新たなコードネーム「ラオフェン・ドラッフェ」を授けられた少年は、半世紀に渡る宇宙戦争に終止符を打つべく、その最前線へと投入されていくこととなる。
自由を奪われ、名前も奪われ。それでも少年は、いつかは自分の夢が叶うと信じて、飽くなき闘争に身を投じ続けた。
しかし時代は、政府は、人々は。そんな彼に、さらなる裏切りを重ねていく。
――やがて戦争の終わりも近づき、「ラスト・コア」との決戦が見えた頃。勝利を確信した官僚や軍部の権力争いが激化し、ラオフェンまでもがそれに巻き込まれる可能性が濃厚となった。
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