第3話 エースパイロットの目醒め
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去の日々を回想し、カリンは口元を僅かに緩めた。
「……カケルがここに来たのは、戦争が終わってすぐ。三年前になるかな。……その頃は、戦争のせいで政府に物資や飛行機をどんどん徴収されてたせいで、町の治安は荒んでたんだ」
「……この町が?」
その言葉に、ゼナイダは訝しげな表情になる。自由奔放なようでも、よく見れば犯罪らしい犯罪はさほど見られず、住民全てが和気藹々と暮らしている、このポロッケタウン。
そんな町並みが、つい三年前まで治安が荒れ果てていたなど、にわかには想像できないことであった。
「うん。強盗も殺人も当たり前。みんな殺伐としてて、父さんも軍人だったせいで謂れのない襲撃を受けたこともあった」
「……当時は、政府管理下の惑星全てが戦争に参加する法令が出ていたからね。士官学校で習ったわ」
「そ。あたし達は気ままに暮らしたかっただけなのに、政府に何もかも踏み荒らされて、皆も殺気立つようになって……。そんな時だったの。父さんが、ひょっこりカケルを連れてきたのは」
「マーシャス三等軍曹が、彼をここへ?」
「あの飛行機ごと行き倒れてたところを、父さんが拾ったんだって。そうしてカケルがこの町に来た頃から、カケルはずっとあんな調子だった」
僅か三年前のことでありながら、当時を語るカリンは昔を懐かしむような口ぶりだった。その様子から、過ごしてきた三年間の密度の深さが窺い知れる。
「それほど人民の精神が荒廃しているところへあんな男が来たら、ろくなことにならないと思うのだけど」
「ふふ……実際そうだったわ。あたしも初めて会った時は『なんだこのお花畑野郎、目ん玉くり抜くぞ』って感じだった」
「容易に想像できてしまうわね」
「ほっといて! ――まぁ、そんなカケルだったから、来たばかりの頃は敵だらけだった。カケルの飛行機を売りさばこうとして、街を牛耳っていたマフィアが攻めてきたりさ」
「……そんなことになったから、彼の飛行機はあんなボロボロに?」
「違うわ。カケルが来た時から、飛行機はあのまま」
「え……?」
カリンが語る内容と、今の町並みがまるで噛み合わない。そんな万事休すの事態になって、なぜカケルは今も無事なのか。
ゼナイダとしては、不思議でならなかった。
「カケルは、マフィアも悪漢も強盗も。みんなやっつけちゃったの。誰一人殺さず、自分も死なず。……殺させず」
「なっ……!? バカなことを言わないで、彼がそれほど強いとでも――」
「――実際、強かったのよ。でも、カケルが本当に『強い』のは、そこじゃない」
話が進むごとに、カリンは頬を赤らめ。幸せそのものといった穏やかな笑みを浮かべる。その瞳に、かつての「悪」と肩を組んで笑う想い人の写真を映して。
「相手の心が折れるまで打ちのめしたあと。
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