暁 〜小説投稿サイト〜
提督はBarにいる。
『あの日』の記憶
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「座ってもよろしいですか?提督。」

「見えなかったのか?今日は俺の貸切りだ。」

 つっけんどんな尋ね方に多少苛立ちを覚えながらも、務めて冷静に受け答えしようとする。しかし加賀は、俺の返答など関係ない、と言わんばかりにカウンターへと腰掛けた。

「いい加減にしろよ、加賀。幾ら俺でも怒るぞ?早く部屋に戻ーー…」

「今日ここに来たのは、赤城さんに行くようにと言われたからです。」

 俺の警告を遮るように、加賀が切々と語りだした。何と無く勘づいてはいたが、やはり赤城の差し金だったか。加賀が轟沈したその現場にいたお前らしい。

「それがどうした?俺には関係の無いことだ。」

「いいえ、有ります。『私』の着任前にも正規空母・加賀が居たと聞きました。そしてその方は提督の無茶な進軍によって沈んだと。」

 加賀の目には一切の揺らぎが無い。その事を叱責しようとか、哀れんで慰めようとか、そんな感情が感じられない。

「私はただ、真実が知りたい。そして貴方が信に値しない人だと感じた暁にはーー……」

 そう言いながら加賀は左手の薬指に嵌められた銀のリングを外し、カウンターの上に置いた。

「この指輪はお返しします。」



 ケッコンカッコカリの指輪。錬度の上限を解放し、更なる戦力増強を図る為の装身具。そして艦娘にとっては司令官からの信頼と愛情の証とされていた物。ウチの鎮守府では前者の意味合いが強く、複数人に指輪を渡している。その中でも加賀は2番手の錬度を誇る猛者だった。

「解った、解ったよ。」

 こうなってしまった加賀は、梃子でも動かない。そんな頑固な所も、『あっち』の加賀にそっくりだ。同じ艦娘なのだから、当然と言えば当然か。

「あれは……そう、この鎮守府が出来て半年程経った頃だ。」



 その頃俺達は難関と言われた沖ノ島海域の攻略に駆り出され、その最前線で戦っていた。後1歩で敵の中枢……敵主力艦隊を叩ける。そんな時だ、加賀が大破したと一報が入って来たのだ。撤退か、強行進軍か。迫られる決断。そこに再び無線が入る。

『行って…下さい……、提督。』

「加賀っ?」

 大破した加賀本人からの通信。

『武装は使い物になりませんが、主機と缶……駆動系は生きています。回避に専念すれば問題ありません。』

「しかし……?」

『貴方には迷っている猶予は無いハズですが?』

「っ!……解った、但し沈むな。必ず還ってこい。沈んでも必ず、だ。」

『了解……致しました。』

 そして彼女達は敵の中枢へと攻撃を仕掛けたのだ。

 昼の砲雷撃戦では敵を圧倒。加賀も言葉通りかわし続けていた。…だが、全滅には至らず。上層部からは「撃滅」……つまりは全滅させろとの命令だった。

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