巻ノ六十六 暗転のはじまりその五
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「誤つると思うからじゃ」
「義ですか」
「そうじゃ」
まさにそれに反するからだというのだ。
「わしはこれを大事にしたい」
「義を何よりもな」
「そうですか」
「御主もそうであるな」
「はい、武士とはです」
幸村もだ、大谷の今の問いに強い声で答えた。
「やはりです」
「義じゃな」
「義があってこそです」
「武士じゃな」
「真の武士の道を思います」
幸村は大谷に述べた。
「ですから」
「そうか、ならばな」
「その義をですか」
「最後の最後まで貫くのじゃ」
「人としてのそれを」
「仁義、礼儀。信義、忠義、孝義、悌義とあるが」
「どの義もですな」
「守ってそしてじゃ」
「武士としてですな」
「生きよ、よいな」
「わかりました」
確かな声でだった、幸村は大谷に頷いて答えた。
「そうしていきまする」
「そして義の道を歩み」
「そのうえで」
「最後の最後まで生きるのじゃ」
「最後まで、ですか」
「人は何時か必ず死ぬ、しかしな」
それでもというのだ。
「死すべき時に死すべきでありな」
「迂闊に死のうとは思わぬこと」
「命は大事にせよ」
必ず終わるものであろうともというのだ。
「よいな」
「わかり申した」
「そしてな」
「さらにですか」
「あの者達も大事にせよ」
十勇士、幸村の家臣であり義兄弟である彼等もというのだ。
「よいな」
「あの者達もですか」
「それもわかっておるな」
「あの者達は拙者の家臣であり義兄弟であり」
「友であるな」
「左様です」
こう大谷に答えた。
「なくてはならぬ者達です」
「ではじゃ」
「それでは尚更にですな」
「大事にせよ」
「はい、そのつもりです」
「ではな、それに御主も今では万石取りの大名じゃ」
一万八千石のだ、彼も正式にそうなったのだ。
「禄もじゃ」
「はい、そうあの者達にも言ったのですが」
「どれだけ禄をやるつもりであった」
「他の家臣達もいますので一人二百石」
「合わせて二千石か」
「それだけ出すといいましたが」
それをというのだ。
「あの者達は笑って断りました」
「二百石はいらぬとか」
「これまで通りの十石でと言いました」
「それでは少ないであろう」
「ですから百石と言いましたが」
「それもか」
「あの者達は断ったのですが」
しかしと言うのだった。
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