巻ノ六十六 暗転のはじまりその三
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「わしは何も言えなかった」
「又左殿でも」
「あそこで意地でも止めたかったが」
「しかしですな」
「既に人をやられては」
そうされてはというのだ。
「最早」
「それがしも早馬と言いましたが」
家康も言う。
「実は」
「大坂から堺は目と鼻の先」
「既に使者は利休殿の下に着いておりましょう」
彼等が今話しているその間にというのだ。
「そしてです」
「この度のこと利休殿は頭を下げられぬ」
「ですから」
「利休殿は」
「はい、腹を切られます」
「そうなる」
「間違いなく」
家康は前田に瞑目する様にして答えた。
「そうなります」
「そうでありますな」
前田も無念の顔で言った。
「ここは」
「残念なことに」
「利休殿がおられねば」
どうなるかとだ、増田が言った。
「政での支えがなくなり」
「そうじゃ、大納言殿と共にな」
前田が応えた。
「それがなくなりじゃ」
「天下が危ういですが」
「小竹殿、いや大納言殿がおられれば」
前田もこう言うのだった。
「違ったが」
「その大納言殿がもう」
「これはいかん」
前田は目を暗くさせて言った。
「最早誰も関白殿を止められぬ」
「誰もですか」
「そうじゃ、もうな」
最早と言うのだった。
「そうなってしまうわ」
「では」
「この状況は危うい、しかもじゃ」
「捨丸様も」
「そして大政所様もな」
秀吉の周りの者が次々といなくなるというのだ、つまり秀吉は孤独の中に陥りそして誰も彼を止められないというのだ。
「これ程危ういことはない」
「何とかしなければ」
「わしもそう思うが」
「しかしですか」
「我等ではどうにも出来ぬ」
「何はともあれ利休殿のことはじゃ」
家康がまた言った。
「もうどうにもならぬわ」
「左様ですか」
「帰るとしよう」
諦めてとだ、家康は大名達に告げた。
「ここは」
「では」
「これより」
「うむ、退散しようぞ」
こう話してだっ、そのうえで。
それぞれの屋敷で報を待った、その報は彼等の思った通りだった。誰もが苦い顔になった。
そしてだ、大谷は話を聞いて都から来た幸村に苦い顔で述べた。
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