第19夜 詭弁
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ゃくしゃに乱れてしまった黒髪が中からずり落ちる。後でまた梳くか、と考えながら、猿轡を外した。以前は拘束が解かれた途端に立ち上がっていたが、今回は少し待っても立ち上がらなかった。
どうしたのだろう、と首を傾げ、はたと思う。以前トレックが来た際は既にあの教導師に一通りの説明を受けていたのだろうが、今回は突発的な話だ。彼女は事態が飲み込めていないのかもしれない。外した拘束具を床に置き、ギルティーネの目の前へ移動する。相変わらずの無表情の筈だが、トレックにはその表情がどこかきょとんとしているように見えた。
「ギルティーネさん、立って。悪いけどまだ仕事は終わってないんだ」
「……………………」
「はい、鍵。先に外に出てるから、法衣着て武器持って出てきてね」
本来は渡してはならないのだろうが、ギルティーネが鍵を悪用して脱走などすることはないだろうと思ったトレックは、彼女の手に鍵を渡して外に出る。前は突然目の前で着替え始めるものだから精神的に大変だったが、来ると分かっていれば恐れることはない。
………恐れるって何をだ?などと自分に疑問を抱きつつ、トレックは牢屋を出て、馬車内のソファに座る。牢屋の中から布のこすれる音と鍵を開ける音が聞こえ、少しの間を置いて扉が開く。
視線を向けると、そこには昨日出会ったあの時と同じ法衣を身に纏い、サーベルを帯刀したギルティーネの姿があった。いつもの無表情化と思いきや、外の眩しさに少しだけ目を細めている。
トレックの姿を見つけたギルティーネは、自分の命運をも拘束する鍵束を躊躇いもなくこちらに突き出してきた。トレックはそれを無言で受け取り………そして、少し躊躇いがちにギルティーネの頬を手のひらで撫でた。まるで彼女の存在を確かめるかのように。
手の平から伝わるのは、女性的な柔らかさと確かな人間の温かさ――こんな暖かさを持った人間が、いつまでも冷たい牢獄に幽閉されるのは間違っている。そう、自然と思った。
「ごめん、しくじって。今回のチャンスでどこまで挽回できるかは正直分からないけど、俺を信じて着いて来てくれないか」
「……………………」
ギルティーネは首を振らず、声も出さない。ただ、その目線が少しだけトレックの手のひらに落ち――視線はトレックの顔へと戻った。その視線が了承の意を示しているのか、それとも拒絶や飽きれを示しているのかは今のトレックには判別できない。
ただ、考えが少しずつ形になってきたことは確かだ。
今から自分がやる事。ギルティーネの為にやる事。死んだ仲間の為にやる事。それら全てがバラバラのようで、一つの目標を浮き彫りにさせる。
「全てのケチの付き始め――外灯の上に佇む上位種を俺達で討伐する」
それが、納得できる道だから。
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