第19夜 詭弁
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あるが、少なくともそうなればギルティーネの牢獄戻りを見直す流れを引っ張れる可能性が高まる。
何とか急場を乗り切った俺に、準法師の男が踵を返しながら小声で囁いた。
「御し切れるといいな」
「彼女は俺のためにしか動きません」
「………『断罪の鷹』の檻馬車を都に運ぶ手配をしなければならんな」
(……彼女はまたあの馬車の中か)
遠ざかっていく男の背中を見送って、俺も踵を返す。
考えなければいけないことが、山ほどある。
遠ざかっていく気配を感じながら、教導師の男は頭の中で取捨選択する。
トレックという男は論理的な言葉を口にしてるが、その根拠となる価値観には雑音とも言える微妙なずれが垣間見える。男の予測ではトレックは今日中に「取り決めに違反しない形で」何かをする意志があると感じ取れた。
それを止めることも考えた。現状で何かしらのアクションを起こすのはまったく非効率的であり、すり減らした精神と疲労を回復するために休養を取る事こそが効率的な行動というものだ。或いは自己鍛錬も度を過ぎなければいいだろう。そしてそのどちらにも、恐らくトレックの行動は当て嵌まらない。
しかし、男はこうも考える。
口で止めても動くときは動くのが人間という生物だ。それは欠落者、非欠落者のどちらでも起こりうる事象だ。故に自分が口出しをして制止することも無駄になり、効率を損なう可能性がある。
ならば、大事の前の小事として捨て置く。
トレックには多少危険の伴う事であれ好きにやらせ、代わりにギルティーネを傍に置く。こうすれば仮にどちらかに命の危険があったとて、ギルティーネは優先命令に従ってひとまず生きた状態で彼を連れ帰るだろう。結果的には二人とも手元に戻るのだから問題は何もない。
あまり外に出したくない貴重な存在ではあるが、先も言った通りトレックの言葉自体は合理的だ。合理的論理と合理的論理がぶつかり合ったとき、生まれるものは泥沼の論争でしかない。なら泥沼を回避する為に相手の意見を受け入れるそぶりを見せておけばそれでいい。
「保険はあるが……念には念を入れて、な」
生きて都に連れ戻りさえすれば、ひとまず男の役割は終わり、願は成る。
トレックの望みと、この月が照らす世界の誰かの願が重なり、本人の与り知らぬ盤上で回される運命が二人をまた引き合わせる。
= =
前に心理学の授業で聞いた話だが、かつてこの大陸でアルバートという『欠落者』の学者がこんな説を提唱したらしい。
『人間の第一印象はその殆どが視覚的・感覚的印象に依拠し、発言内容などの聴覚的情報が及ぼす心理的印象は少ない』――だっただろうか。これを極めて簡単に解釈すると、人間の第一印象は見た目で決まっていると
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