Side Story
少女怪盗と仮面の神父 35
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濡れた袖に無数の深いシワを刻む。
思いがけず強い力で抱きついてしまったせいか。
驚いた顔のベルヘンス卿が、震える自分を見下ろした。
「義賊が憎いなら、あなたを深く傷付け、ウェミアさんを死なせてしまった義賊に復讐したいって言うのなら! その矛先は私達義賊にだけ向けて! もう、他の誰も殺さないで??」
掠れそうな叫び声に、イオーネの肩が小さく跳ねる。
「……復讐?」
アーレストを映していた瞳がゆっくり横に動き。
ずぶ濡れた山猫を捉えて、ぱちぱちと数回瞬く。
そして
「くっ……、あっははははははは!」
「…………!」
楽しくて仕方ないとでも言いたげに、大声で笑った。
「復讐? 復讐ですって?? どうしようもないわね、頭にお花畑を乗せてる温室育ちのバカ猫は! この私が? そんなくだらない動機だか目的の為にアルスエルナまで来たと、本気で思ったの??」
「でもっ……だって、あなたは!」
「復讐とやらに、なんの意味が? 仕返し? 気晴らし? 八つ当たり? あはっ、実にバカバカしい。得られるモノが一つもない行為に執着しても、時間の無駄。無意味だわ。私はねえ、シャムロック。この世界に存在する、何よりも誰よりも、ブルーローズにこそ感謝しているのよ?」
「「「…………っ??」」」
くつくつ喉を鳴らし、肩を揺らすイオーネに。
驚きと戸惑いが混じった軍属騎士達の視線が集中する。
ハウィスとクナートが息を呑む音も、微かに聞こえた。
「十三年前……ブルーローズに親の形見を奪われて激昂した子爵は、当日の邸宅に居た使用人全員を激しく責め立てた。中でも、容姿の珍しさと職務に対する勤勉さで群を抜いて目立っていたウェミアへの殴る蹴るを加えた暴言紛いの叱責は、子爵との睦まやかな仲に定評があった婚約者でさえ、怯えて逃げ出すほど凄まじいものだったわ。
子爵からウェミアを庇った私は、ウェミアを見逃す代わりに一人で形見を取り戻してこいと命じられてね。調査と追跡の末に辿り着いたバーデルで、形見の新しい所有者となっていた貴族を、うっかり殺してしまったのよ」
初めは、人を刺したナイフの感触が恐ろしいと思った。
次に、アルスエルナへの帰路が断たれてしまうと焦った。
権力者を害した罪人ですもの。渡国制限を科されるのは当然よね。
けど、目の前に横たわる体が色を失っていく様子を見届けると、不思議と恐怖も焦りも後悔も、全部消え去った。
「その時、理解したの。欲しい物は根こそぎ奪い取れば良いのだと」
『奪われた者が二度と関われないよう、欠片も残さずすべてを奪い尽くせ』
「これは、お前達義賊の行為が教えてくれた素晴らしい人生の教訓。だから私はこれに気付かせてくれたブルーロー
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