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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 35
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で」

 神父を助けようと踏み出しかけた瞬間、ベルヘンス卿が肩を掴んで制止。
 王子との間へ滑り込み、戸惑うミートリッテを背中に庇った。

 アーレストが殺されれば、次の標的はシャムロックだ。
 ベルヘンス卿の判断は、ハウィスを部下に持つ王子を護るという意味で、ミートリッテにとっても正しい。

 そう、頭では解る。
 解ってはいる、けど……

 ブルーローズに対する異常な執着。
 アルフィンの過去と重なる『十三年前』に起きた変化。
 十一年前の自殺騒動を詳しく知っているかのような口振りと態度。
 初めて会った時から()()()()()()()()()()()()交わされ続けている会話。
 その他諸々の情報は、ミートリッテの脳内に刻まれたイオーネの輪郭を、狂った殺人者とは異なる物へと変えていく。

(確証は無い。でも、仮に私の推測が間違ってなかったら、あの人は……)

 イオーネを止めなければ。
 ブルーローズとシャムロックが犯した罪業の結果で、ほぼ無関係(?)なアーレストを殺させるわけにはいかない。

 これ以上の凶行は、せめて元凶である義賊の手で止めなくては!

「二人目のマーシャルさんを作りたいのか?」
「…………っ??」

 声量を抑えたベルヘンス卿の牽制が。
 焦燥で浮き上がったミートリッテの足裏を、地面に叩き落とした。

(マーシャルさん……ハウィス……)

 ミートリッテの後方で行われている治療は、未だ終わりを見ていない。
 乾いた布が不足してるせいで、止血が上手くいかないらしい。
 クナートは黙々と傷口の洗浄、応急処置を続け。
 ハウィスはマーシャルの頬や腕をさすって、体温の低下を防いでいる。
 一刻も早く、十分な治療道具と明かりが揃う場所へ連れて行かなければ、本格的にマーシャルの命が危ない。

(……私……、本当にバカで最低だ。衝動任せに突っ走ったらどうなるか、マーシャルさんのあの姿を見て反省したんじゃなかったの? ここに来て、また新しい犠牲者を増やすつもりなの? イオーネの剣を避ける自信もない私が無防備に飛びかかったところで、抵抗する間も与えられずにあっさりとねじ伏せられるだけだ。ハウィス達を余計に苦しめるだけでしょうが!)

 動くな。
 大切な人達を護りたいなら今は動くなと。
 頭の中で何度も何度もくり返し、飛び出したい気持ちをなんとか堪えた。

 でも。

「……お願い……っ」

 それでも、ただ護られるだけの傍観者には、なりたくない。
 なっちゃいけないんだ!

「お願いだから、もうやめて、イオーネ!」

 ベルヘンス卿の斜め後ろから彼の左腕にしがみつき。

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