百九 長夜の始まり
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下することなど眼に見えている。それなのに、頭に血が上っている彼女はそれすら構わぬとばかりに暴れた。
仕方なくナルトが地へ降り立つと、紫苑は弾かれたようにパッと背中から降りて、脇目も振らず駈け出した。
紫苑はナルトから逃げるように木々の合間を縫うように走る。長くナルトに背負われていたからか、足がもつれ、何度もこけそうになりながらも、彼女は駆けた。
やがて、息を切らした紫苑は、ようやく足を止め、巨大な木の幹に手をつく。
彼女の伏せた顔からは汗だけではない大粒の水滴が落ち、はぁはぁという苦しげな呼吸には嗚咽が雑じっていた。
「近しい者の死が…っ」
自分に追いついたナルトの気配を背中に感じながら、紫苑は木の幹に爪を立てた。
喉が張り裂けんとばかりの、心の底からの叫びが深い森の中こだまする。
「近しい人間が死んで、悲しくない者などおるかァ……ッ!!」
それ以上立っていられなかったのか、そのままずるずると紫苑は崩れ落ちた。長い艶やかな髪が彼女の泣き顔を覆い隠す。
身体をわななかせてうずくまる紫苑を、ナルトは無言で見下ろしていた。
「足穂殿から以前お話をお聞きしました。紫苑様が予知なさるのは大体においてお傍に仕える者達…」
「…その通りじゃ。予知とは巫女の命を守る為の能力。自らの死を察した時、巫女の魂は本体を離れ、過去の自分に死ぬ瞬間の映像を見せる…死ぬ時に見やるは巫女の傍にいる者の姿。だからその者は巫女から予知を聞き、自らが身代わりとなって、巫女の死を防がねばならぬと考えるのじゃ」
要は、時を越える能力が巫女には備わっているのだろう。その一端であるのが『予知』か、とナルトは冷静に推測していた。
「これが巫女の予知の仕組み―――巫女が死ねば、【魍魎】を封印出来る者はいなくなり、遠からず世界は破滅するだろう。だから巫女は、他人を犠牲にしてでも生き残らねばならぬ。生き続けなければならぬ」
紫苑の足元に散らばる落ち葉が濡れてゆく。
その原因が彼女の瞳から零れる大粒の涙だということは明白だったが、紫苑は頑なに泣き顔をナルトに見せなかった。
やがて彼女は歯を食いしばって、泣くのを無理やり押し止める。
「鬼の国の人間、特に巫女を守る付き人達は巫女の命を永らえさせる生贄そのもの……だからこそ、泣く事は許されぬ。今まで私の為に死んでいった者達を冒涜することになるから…」
目線こそ大木の幹に向けられているものの、紫苑の眼は何処か彼方を見ていた。
大木の根元に腰を下ろした彼女は、組んだ腕の中に顔を埋める。雪白の髪がさらりと、瞳に宿る諦観の色を覆った。
「誰が他人の屍の上でのうのうと生きていることを良しとしようか。いっそ、自分が死ねばいいと、何度思ったことか…。しかし、それは許されぬ。私は、【
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