暁 〜小説投稿サイト〜
霊群の杜
祟り神
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あれ?顔赤くない?」
「あー…石段が長い。ばてた」
あながち嘘でもない。梅雨が明けて真夏日が増え、この石段がまじできつくなってきた。
「縁ちゃんは元気だなぁ」
「んん、周りに無精者が多いと体力つくんだから」
そう云って縁ちゃんは頬をぷうと膨らませた。こういう所を見ると、まだ子供だなと思う。
「…お使い?」
珍しい。
「ん。さっきお腹すいた、なんかくれって珍しくLINEが入った。超珍しく。きじとらさん、最近来てないのかな」
「俺のとこにもだ。超珍しく。無精過ぎて愛想尽かされたかな」
縁ちゃんが提げている深い紫色の紙袋は、ここらでは一番、と奉が云っていた『志ほ瀬や』のやつだ。…あーあ。甘味がかぶってやんの。
そうこう云っている間に、また女子が俺たちを追い抜いていった。
「―――最近、女の子多いね」
「小説に使われたり、ゲームが出た直後とかに少し増えることはあったけど。今回はなんかねぇ…わかんない」


「…教えてあげよっか?」


僅かに聞き覚えのある、少しハスキー寄りの声に振り返った。
「んん?」
縁ちゃんが怪訝な目をした。俺は…凍りついた。艶のある髪の隙間から『あの目』が覗いていた。つい反射的に身構える。
更に艶やかさを増した『それ』は、危険な程の秋波を漂わせて俺たちの背後にひっそりと立っていた。
「――飛縁魔」
「あら?」
飛縁魔はおかしそうに笑った。俺は飛縁魔から目を離すことなく、そっと縁ちゃんと飛縁魔の間に入る。縁ちゃんに何かあったら、奉に顔向けが出来ない。
「そんな警戒しないで?『今の君』に野暮はしないわ」
今の、俺?
「学校のひと?」
縁ちゃんがきょとんとした顔で聞いてくる。…当たり前だけど飛縁魔と並んでしまうと、本当に幼い。
「うん♪このひとの、元カノ♪」
「お、おい…」
否定しかけてやめる。…情けない話、とっさに俺の中に『見栄』が閃いた。こんなちょっと周りに居ないくらいの美女が元カノとか…俺の株、上がるんじゃないか…とか思ったとしても誰も俺を責められないと思う。だってほら、縁ちゃんも『へぇ〜』みたいな顔で俺と飛縁魔を見比べているし。
「…うそ。結貴くんっぽくない」
鋭いな君!!
「んふふふ、どうかしら…。で、知りたい?」
「何を」
「この神社に、妙に若い女の子が集まってきている、理由」
「お前、何かしたのか」
不意に奴は、悲しげに長い睫毛を伏せた。…そ、そんな顔をされたら漏れなく俺が悪者になるじゃないか。だってほら、縁ちゃんも『へぇ〜…』みたいな顔で俺を睨んでいる。
「…云い過ぎた」
そう云うしかなかった。…くそ、奉がああいう事を云わなければ。


『居場所が欲しい、だけなんだがねぇ』


罪悪感が、ちくりと胸を刺した。飛縁魔は少し肩をすくめて笑った。
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