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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百五話 キフォイザー星域の会戦(その3)
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テンハイム侯は死ぬ気だ。今の侯ならどんな非常識な事でもやってのけるだろう。油断は出来ない。
「分かるかな、フロイライン。効果的な追撃は出来ない、してはならないのだ。ならば最初からリッテンハイム侯の包囲殲滅を狙うべきだろう。そしてそれこそがリッテンハイム侯の目論見だ。自らが犠牲となり四個艦隊を逃がそうとしている」
フロイライン・マリーンドルフが頷いた。戦闘には勝ちつつある、だが最後までリッテンハイム侯にしてやられたようだ。苦い勝利だ、こんな苦い勝利を味わうことも有るのか……。
帝国暦 488年 1月31日 3:00 リッテンハイム艦隊旗艦オストマルク クラウス・フォン・ザッカート
「敵予備部隊、我が軍の後背を塞ぎます」
「そうか、ザッカート、一部隊を後方の防御にまわせ」
「はっ」
オペレータの緊迫した声が艦橋に響いた。これで我が軍は前後左右を全て敵に塞がれた事になった。状況は良くない、味方は既に二万隻を割り一万五千隻ほどになっている。だが指揮官席に座るリッテンハイム侯は動じる事も無く戦況を見、艦隊に指示を出している。
敵の総司令官、コルネリアス・ルッツは撤退する味方を追わず、こちらに戦力を集中してきた。もし味方を追撃するようなら乾坤一擲、こちらの一隊をもって敵の後ろを突き崩してやったのだが。そうなれば勝利の女神はどちらの腕を取るか未だ分からなかったはずだ。
派手さは無いが堅実で隙の無い用兵をする男だ。出来る事と出来ない事を見極めて出来る事を確実に行う、こういう男は手強い。総司令官に任命されたのもその堅実さを買われたのだろう。
「ザッカート、ノルデンとラーゲルは無事逃げたかな」
包囲される直前の事だが、リッテンハイム侯はノルデン少将、ラーゲル大将を艦から退去させた。顔面蒼白になって震えている二人にうんざりしたらしい。侯の二人に対する言葉は“興醒めだから出て行け”というものだった。
「さて、運が良ければ逃げたでしょうが」
「運が良ければか? この戦に加わったのだ、余り運は良さそうには見えぬな」
そう言うとリッテンハイム侯は笑い出した。全く同感だ、戦死したか、捕虜になったかだろう。
「ところでザッカート、味方はもう十分に逃げたか?」
「後三十分と言いたい所ですが、欲を言えばさらに一時間は欲しい所です」
俺の答えにリッテンハイム侯はまた笑い出した。
「一時間か? そいつは有り難いな。負け戦の楽しさがようやく分かってきたところだ。後二時間でも構わんぞ」
見事だ! 思わず笑い声が出た。八万隻、四倍以上の大軍に囲まれているのだ。後一時間持たせる事が至難の事だとは侯自身も分かっているだろう。その上でその言葉を言うか!
「惜しいですな、侯」
「ん、何がだ?」
「
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