第40話『暗雲』
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温もりをもたらす。
さっきみたいに断ることもできただろう。なのにこの時だけは、身体は素直にユヅキに従った。
晴登と同じように、ユヅキも別れのことを考えたはずだ。それなのにどうして、わざわざ未練を残すようなことをするのか。
晴登は彼女がいる方と逆の方向を向く。何だか顔を見る気になれない。
「やっぱり男の子だね。大きい背中」
ふと、晴登は背中に温かさを感じた。布団ではなく、隣の存在に。
囁くようなユヅキの声が身体に染み渡る。
自然と口元が綻ぶ。自分にそんな背中はないのだと、自嘲気味に。
今日はもう、考えるのは止そう。今は、この温かさを感じていればいい。
そして、いざって時は守ってあげよう。
それが、今背中に感じる信頼に応えられる最大限の恩返しだから。
晴登は目を閉じ、温かさに縋るように眠りについた。
*
「おいっ…どこだよ、ユヅキ!?」
息を荒げながら駆ける晴登。
綺麗で美しかった王都の街並みには所々ヒビが刻まれ、あちこちに紅い斑点が見える。そして、その模様の中心には人間や魔獣の屍があった。
それを見ても、もはや嘔吐感は催されなくなったが、代わりに焦燥感が掻き立てられてしまう。
「…ガウッ!!」
「…またか! はぁっ!!」
唐突に横の路地裏から飛び出してくる狼の様な魔獣。晴登はそれを、風を使って吹き飛ばす。風を真っ向から受けた魔獣は背中から地面に激突し、そこからピクリとも動かなかった。
これで何体目だろう。
その獣の末路を見届けることもせずに、整わない呼吸のまま、晴登は再び走り出す。
魔力と体力は……もう尽きようとしていた。
「ちっ…痛ぇ…」
左腕を右手で抑える。抑えた所からは未だに少しずつ血が流れ出ており、ズキズキと常に痛みを感じるため、自然と足取りがふらつく。
しかも、左脚を引きずるような走りも体力を削る1つの原因だ。見ると、ふくらはぎの辺りに紅く歯形が残っている。
この2つの箇所は、どちらも魔獣によって負わされた負傷であった。
まだ完全な魔術師ではない晴登には、怪我をしない戦い方も怪我を治すこともできない。
今は、それがひどく情けないと思う。
「どこなんだよ、ユヅキ!」
それでも、晴登は銀髪の少女の行方を捜す。
一緒に過ごして2日しか経ってないが、信頼し合う程の仲にはなったつもりだ。
だからこそ、『逃げる』なんて見殺しにするような行為はしたくない。見捨てられない。自分だけ逃げるなんてダメなのだ。
この惨状の中で、ユヅキが生き残ってる可能性は高くはないけど・・・見つけなくてはいけないのだ。
「どこ…だよ…」
なのに本心とは裏腹に、諦めたよう
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