20. 初期艦は電 〜電〜
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「それが艦娘失格なのかどうかは正直俺は知らんけど……」
「……」
「たとえそうだとしても、電には今の電のままでいて欲しい。むしろ、今の優しい電だからこそ、みんなにとっては大切な子だ。……もはや加齢臭のキツい初老のおっさんだけど、俺はそう思ってるよ? そしてきっと、他のみんなもそう思ってるよ?」
暗くなり始めた夕焼けに照らされた司令官さんの笑顔は私に向けられていた。
「司令官さん……ひぐっ……」
「ガキの頃の俺の心を奪ってくれてありがとう電。おかげで俺は今、いい子たちに囲まれて充実した日々を過ごせている。深海棲艦の仲間だなんて、普通にしてたら絶対に出会えない友達を連れてきてくれる」
「ひぐっ……ぐすっ……」
「なにより、ガキの頃の俺の憧れだったお前さんと毎日過ごしていられる。ありがとう電」
司令官さんはそう言って、キラキラと輝いた目で私を見つめていた。きっとこの眼差しが、幼いころに私のプラモデルを見つけた時の……私の本を夢中になって読んでいた時の、司令官さんの眼差しだったんだ。
私もこの人に初期艦に指名されてよかった。他の人から『艦娘失格』とか『ヘタレ駆逐』とか言われる中、この人はそんな私のことをヒーローと言ってくれた。そのままでいい、今のままでいて欲しいと言ってくれた。司令官さんのこの言葉は、自己嫌悪に陥りそうになっていた私の心のヒビに静かにゆっくりと、だけど深いところまでじっくりと温かく染み込んでいった。
「司令官さん……ひぐっ……司令官さん」
「ん?」
「ありがとうなのです……電もありがとうなのです……ひぐっ……」
「……んじゃみんなと晩御飯たべといで」
「……はいなのです。んじゃ司令官さんも……」
「俺のことはいいから。みんなで食べてきなさい。みんな待ってるから」
「そうなのです?」
「うん。きっと待ってるよ」
なぜみんなのことを司令官さんは分かっているのだろう……そう思って司令官さんを見た。いつの間にやら死んだ魚の眼差しに戻っていた司令官さんは、いつもの司令官さんに戻ってしまっていたようだった。
「知らんけど」
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