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フロンティアを駆け抜けて
初めてのファン?
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とはあんまりないかな。忙しい人だから」

 答えるジェムの声は、憧れと寂しさが混ざっていた。チャンピオンの仕事は何も挑戦者を待つだけではない。何かポケモンによる事件があれば解決に当たるし興行として町に出向くこともある。それはホウエンだけでなく、別の地方に行くこともあり一か月以上家に帰ってこないことも珍しくない。

「でもね、お父様のことはお母様やジャックさん……私のバトルの師匠が教えてくれるし、たまに帰ってきたときは一杯遊んだり相手をしてくれるから淋しくないわ。本当よ?」
「……そうですか。羨ましいのです」
「羨ましい……?」
「わたし、お父さんとお母さんの顔を知らないのです。どういう人だったのかもわかりません。物心ついた時には、一人でしたから」

 アルカは淡々と言う。羨ましいと言っているものの、特段の感情はこもっていないように聞こえた。何も知らない分、気持ちの込めようがないのかもしれない。ジェムはそれを悲しいことだと思った。ダイバとは違った意味で、彼女は親子の愛情を知らないのだから。

「おっと、余計なことを話してしまいました。チャンピオンは今ので優しそうな人ってわかりましたけど、お母さんはどんな人なのです?」
「お母様はお父様と違ってちょっと偏屈なの。落ち込みやすくて不器用で心配性なところがあるけど……でも、優しいお母様よ」
「仲が良いんですね」
「あの……あなたには、誰か家族の様な人はいないの?」

 聞くべきかは躊躇われるところでもあったがやはり気になってしまった。アルカはため息をつく。やはり聞くべきではなかったかと思ったが、割とすらすらと答えた。

「一応、拾ってくれた人はいるのですよ。そのことには感謝してますけど、これがまあ困った人でして」
「そ、そうなんだ……でも、嫌いじゃないんだよね?」

 アルカの言い方は辟易こそすれ、愛想を尽かしているように聞こえなかった。アルカも肯定する

「まあそうですね。恩義はありますし、協力はしてあげてもいいと思っています。ところでジェムさん。もう一つ質問してもいいですか?」
「どうしたの改まって。もちろんいいわよ?」
「そうですか……では」

 アルカはジェムを細めた目で見つめる。そして一言、蠱惑的に呟いた。


「身体が痺れませんか?」


 ジェムは一瞬、質問の意味がわからなかった。アルカは立ち上がり、ジェムの正面で前かがみになって鼻先が触れるほど近づける。驚いてジェムが身を避けようとすると――その体が、動かない。蛇に睨まれた蛙のように。そして持っていた水筒のコップを取り落してしまう。

「あ、あれ……」
「ちゃんと効いているみたいですね。良かったのです」

 恍惚としたアルカの吐息がジ
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