巻ノ六十五 大納言の病その十四
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「関白様は余計に寂しくなられる」
「その寂しさが厄介ですな」
大谷は目を鋭くさせて家康に問うた。
「お心が荒れますので」
「うむ、わしもそれはわかるつもりじゃ」
家康はこれまで人生で人質になりたてだった時のことを思い出して応えた。今川家に入ったばかりの頃のことだ。織田家でもそうであった。
「吉法師殿がおわれ今川家にはよくしてもらったが」
「それでもですな」
「うむ、実にな」
「ですがあの方は」
「実は孤独はな」
それについてはというのだ。
「実はこれまで味わったことがないのでないか」
「そういえば」
石田もここで気付いた、それではっとした顔にもなった。
「あの方はこれまでずっとお傍にどなたかおられました」
「人がお好きでな」
「人を惹き寄せる方でもありますし」
「わしもそのお人柄に惹かれた」
家康にしてもというのだ、かつて剣を交えたがその間も決して秀吉を嫌いではなかったのだ。
「あの方が織田家におられた時からな」
「その頃より」
「自然と人が集まる方じゃ、だが」
「天下人はですか」
「家臣との距離がどうしてもある」
「それ故にご一門の方が必要ですか」
「しかしその中の一番の柱であられた大納言様がみまかわれ」
そしてというのだ。
「捨丸様、そしてお母上となれば」
「後は奥方様のみですか」
「そうなれば非常にお辛い」
秀吉の立場になり考えてだ、家康は石田に述べた。
「だからな」
「あの方は非常に寂しいのですか」
「今な、それでお辛いのじゃ」
「左様ですか」
「孤独に押し潰されねばよいが」
「関白様はその様な」
弱い心はとだ、石田は言おうとした。だが。家康はその石田に言った。
「人は様々な面がある」
「そしてその面にですか」
「弱い面がある、誰もがな」
「では関白様も」
「それが出なければよいが」
孤独に対するだ、家康はこのことを心から心配していた。そしてその危惧は不幸にも当たることとなるのだった。
巻ノ六十五 完
2016・7・15
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