第7章 聖戦
第155話 再召喚
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暗く、冷たい冬に支配された森から一歩踏み出したその先は――
何も見えない。何も聞こえない。ここはただ漆黒の闇だけが存在する空間……。
………………。
……いや、違うな。そう考え掛けて、直ぐに首を横に振る俺。何故ならば、おそらくここには闇すら存在していない場所だと考えたから。
そう、ここにあるのは何もない……と言う状況だけ。ただ、虚無と呼ばれる状態だけが存在している世界。
絶対的な無――茫漠たる虚無の支配する世界。その世界へと一歩踏み出す事により五感のすべてを失って仕舞った俺。そう、ここには上も下もない、光も闇もない、ただただ、永遠の孤独だけが存在すると言う空間を漂うだけの自分。時間と言う概念すら失ったかのように、今が何時なのか。そもそも、ここにやって来たのがどれぐらい前なのかさえ分からなく成っていた。
そのような、自己とそれ以外の境界すら曖昧となる世界から――
何もかもが。自らさえもが完全に世界に溶け込もうとした刹那、周囲を、世界を支配していた虚無が僅かに薄れ、ただ広がり続け、曖昧となりつづけていた自己が再び取り戻される。自分自身が曖昧となり、無秩序に広がり、世界と混ざり続けて居た混沌から、秩序ある形へと集束して行く事を感じたのだ。
その瞬間――
遙か彼方に光が見えた。白く煌々と輝く光が、時間の流れからさえも切り離され、虚無に支配されたこの世界に。その瞬間、たったそれだけの事で、失ったはずの視覚を取り戻したのだ。
無意識の内に手を伸ばし……いや、当然、今の俺がちゃんとした人の形で四肢を持っている存在なのか非常に曖昧なのだが、それでも取り戻した視覚を。――曖昧と成り続けていた自己を再び失いたくないが故に、手を伸ばすイメージを抱いた瞬間、重い何か……深い水の底で腕をかいたような感じがして触覚を取り戻した事が理解出来た。
同じように聴覚を、味覚を、嗅覚を次々と取り戻して行き――
そう、失われた血が、骨が、肉が、内臓が次々と再生して行き――
そして最後の一歩を――
「胸の内に念じ申す願いを、成就なさし給えと――」
まるで死亡状態から、もう一度生まれ直すかのような体験。存在の……肉体の再構築。
一度魂魄から完全に切り離された肉体が瞬時に形成され、お互いに融合。その爆発的とも言うべき一瞬の再構築に伴う苦痛。虚無に支配された世界に紛れ込んだ異物を融合する事が出来ず、其処からはじき出された喪失感。
そんな、無から有が発生した瞬間の後に辿り着いた場所は……。
妙にざわつく雰囲気。俺を中心とした周囲に集まる雑多な感情。歓声と光あふれる場所。濃い香水の香りと多くの人々が発する熱気。あまり多くの人の視線を受ける事に慣れていない
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