巻ノ六十五 大納言の病その九
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「許されればいいのです」
「それが出来ぬと言っておるが」
「それは関白様の我が儘」
石田は容赦なく言っていく。
「我が儘はおよしなされ」
「出来ぬと言っておるが」
「いえ、出来まする」
まだ言う石田だった。
「気にされずにです」
「出来ぬと言っておるが」
「出来まする」
「まだ言うというのか」
「はい、天下の為にです」
ここはとだ、石田は一歩も退かず言う。
「是非共」
「利休を許せというか」
「そしてこれからもです」
「あ奴の話を聞けというのか」
「左様です」
「まだ言うのか」
「そうです、よいでしょうか」
「何としてもか」
「小さき器ではです」
利休を許さない様な、というのだ。
「天下を治められませぬ」
「佐吉、御主だから言う」
秀吉はここまで聞いてだ、そのうえで。
眉を顰めさせてだ、石田に告げたのだった。
「下がれ」
「下がりませぬ」
「今はわしの前から下がれ」
「関白様がよしと言われるまでは」
「下がれと言っておる」
「断じて」
「治部、もうよい」
ここでだ。大谷が石田に言った。
「関白様のお言葉じゃ、下がるぞ」
「しかし刑、それでは」
「下がるべきじゃ、わかったな」
「桂松、佐吉を連れていけ」
すっかり怒った顔になりだ、秀吉は大谷にも言った。
「わかったな」
「さすれば」
「さもなければわしが間を出る」
今彼等がいるこの場をというのだ。
「わかったな」
「いえ、それには及びませぬ」
大谷は臣として秀吉に返した。
「ですから」
「御主達が下がるか」
「佐吉、あらためて参上するぞ」
「わしは下がらぬぞ」
「だから人の話を聞け」
大谷は石田に怒った。
「よいな」
「出来ぬと言うが」
「出来なくても聞け、よいな」
こう言ってだ、石田を引き摺る様にして間から出した。秀吉はその間怒っている顔を崩さなかった。だが。
石田にだ、大谷は別の間で言ったのだった。
「御主の言う時も言い方も悪い」
「何故悪い」
「だからじゃ、あそこで言ってもじゃ」
「駄目というのか」
「しかも言うそれもじゃ」
言い方もというのだ。
「悪い」
「わしは間違ったことを言っておらぬ」
「だから言う時と言い方があるのじゃ」
このことを言うのだった。
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