16. 命令 〜電〜
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……でも、戦いたくなくても出撃しないと、私たちだけじゃなくて司令官さんも危ない……。
「……ところで命令書は? 詳細を知りたい」
いつもの柔らかい口調で……だけどいつもよりもなんだか冷酷な声色で、司令官さんがロドニーさんに命令書を催促していた。
「……これだ」
ロドニーさんは純白の下地に真っ赤な十字が入った前掛けの裏側から一通の封筒をピッと取り出し、それを司令官に渡す。受け取った司令官はペーパーナイフで封を切り、中から一枚の書類を取り出してそれを読みだした。
「ふーん……」
「なんでも貴公たちが一度失敗した任務だそうだ。次こそは是が非でも成功させろ……と中将閣下はおおせだ」
私は見逃さなかった。書類を読む司令官の左の眉毛が一瞬だけピクッと動き、目に力が宿った。その目に宿った力は、強い意思には変わりないが……勇気や希望といったポジティブで前向きなものではなく、怒りと憎しみのようなものだった。
「……ロドニー」
「?」
「あのクソ、クソの中でも別格のクソだ」
「……」
「麗しのノムラ・クソ・マンゾウ中将閣下に、この鎮守府を代表してクソ・オブ・クソの称号を俺からプレゼントしてやる。これから公私にわたってミドルネームにクソってつけて呼んでやるから覚悟しろって報告あげといてよ」
「貴公の立場上、それはまずいのではないか?」
「こんなことを命令されるうちの子たちの気持ちを考えれば、それすらまだ穏やかだ」
いつになく、司令官が怒りを顕にしていた。物腰はいつもと同じで柔らかいし声も穏やかだけれども……言葉の一つ一つから、普段は感じられない憤りや憎しみといった感情が感じられた。
普段から司令官さんは、攻撃的な言葉は使わない。激しい言葉遣いをしたこともなければ、強い言葉を使ったこともない。私は司令官さんの初期艦だから、大淀さんと同じくこの鎮守府の中で司令官さんと過ごした時間は一番長い。その私すら聞いたことのない言葉を司令官さんは口走った。それだけ憤っているのか……。
「し、司令官さん」
「ん?」
どうしよう……司令官さんを怖いと思ったのははじめてだ……。
「何を命令されたのです? 深海棲艦さんたちへの攻撃なのです?」
「ん……」
普段ならどんなことでもしれっと口に出す司令官さんが、珍しく言い淀んでいる。そんなに言いづらい作戦内容なんだろうか……。
「司令官が言わぬのなら私が説明してやろう。今回の作戦内容は、敵勢力圏内にある資材集積地の一つへの強襲と、そこを実効支配する敵勢力を排除することだ」
「え……」
「その集積地点を実効支配する陸上型深海棲艦は、つい最近まで行方不明だったものの再び姿を見せ、その地点に資材を集めているらしい。戦艦棲姫をはじめとした護衛艦隊も
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