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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百二話 別働隊指揮官 コルネリアス・ルッツ
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令長官も気にした様子もなく言葉を続けた。
「私は国を変えたいと思った。誰もが安全に暮らせる世界を作りたかった。そう、英雄など必要のない世界を作りたかったのだと思います」
「……」
司令長官がまた俺を見た。柔らかい微笑を浮かべている。
「トゥルナイゼン少将、英雄など必要ないほうが良いんです」
「……」
「英雄が必要とされる時代、そんな時代は決して良い時代じゃない。世の中に不満が有るから、矛盾が有るから、それを解決するために英雄が必要とされる。不幸な時代なんです」
「……」
「もしローエングラム伯が帝国の実権を握ったら全てを打壊し新王朝を興して宇宙を統一したでしょう。そうする事で不満や矛盾を解消したはずです。まるで叙事詩のような時代ですよ、華麗で壮麗で眩いほど輝かしい時代……。炎と流血で彩られた激しい時代です」
司令室に司令長官の声が流れた。皆黙って司令長官の言葉を聞いている。リューネブルク中将も口を挟もうとしない。
「私には受け入れられなかったでしょうね。何処かでローエングラム伯に付いて行けず反発したと思います」
「……」
「私とローエングラム伯は並び立つ事が出来なかった。でもそれは私が英雄だからじゃない。私が凡人で英雄を受け入れられなかったから、英雄など必要ない時代を作ろうとしたからです」
「……」
「凡人の、凡人による、凡人のための改革……。後世の歴史家はそう言うかもしれませんね。この改革には英雄的な要素は何処にも無かったと……」
司令長官は苦笑を漏らした。もしかすると自嘲しているのかもしれない。
「閣下の御気持は分かりました。しかし御自身を凡人だと仰るのはお止めください。我々は閣下こそが英雄だと信じているのですから」
リューネブルク中将の言葉に皆が頷いた。同感だ、司令長官が自身をどう評価しようと帝国は司令長官を中心に動いている。これこそが英雄の証ではないか。
「……そうですね、気をつけましょう。ケスラー提督にも以前同じような事を言われていますから」
「ケスラー提督にですか?」
司令長官はフィッツシモンズ中佐の問いに頷いた。そしてクスクスと笑った。
「英雄では有りませんが、その真似事ぐらいはしないと怒られますからね」
「真似事ですか、なかなか上手くやっておられると思いますが」
「リューネブルク中将、いくら中将でも失礼ですぞ」
リューネブルク中将の言葉にワルトハイム参謀長が厳しい表情で注意した。フィッツシモンズ中佐も中将を睨んでいる。リューネブルク中将が彼らを見て微かに肩を竦める仕草をした。周囲から笑いが起き、ようやく雰囲気が和んだ。もしかすると中将はこれを狙っていたのかもしれない。
俺も皆と一緒に笑いながら考えていた、英雄とはなんなのだろうと。自ら英雄たらんと
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