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暴れん坊な姫様と傭兵(肉盾)
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た。
 (さっ)しが悪い僕でも、その意味は何となくわかる。

「お偉いさんがしがない酒場付きの宿屋で食事をしていても誰も気に()めない…わけないですよね」
「デトワーズ皇国のお国柄などではないね。 いくら我らの姫陛下が型破りでも、あそこに“(ロックス)”がいる事が普通ってわけじゃない」

 ちゃんと常識があるのですね。
 そしてあそこにあの宰相さんがいるのも普通じゃないわけですか…。

「彼がなぜそこにいるかは…まぁ、そこは直接話してみる事だね」
「…はぁ〜……」

 僕は肩を落として溜め息を付いた。




「…………」

「…そこで何をしているのですか?」

 僕は階段下近くまで来ていた。

 トボトボとそこに近づいて、コソコソと(のぞ)くようにして、ビクビクしながら宰相さんを(うかが)っている。
 傍から見ればそれは不審者そのもの、挙動不審(きょどうふしん)過ぎて向こうの方が先に声をかけてしまっていた。

「こ、こ…こんにちわ」

 躊躇(ためら)いがちに挨拶をかけるも声が震えるのが自分でもわかる。

 そんな自分を見て、宰相のエドヴァルド・ロックスは食事の手を止めて、階段下を(のぞ)くこちらに向き合ってきた。

「君は今日会った傭兵(ようへい)…いえ、今日付(きょうづ)けで試験的特例(スペシャルテストケース)近衛(インペリアルガード)でしたね」
「は、はい」

 驚く事に、宰相さんは僕の顔を見て思い出してくれたようだ。
 試験的特例(スペシャルテストケース)近衛(インペリアルガード)とやらが特徴的なのか、とても偉い人に顔を覚えてもらうなんて
 エンリコ・ヴェルター・ファーン伯爵やエルザ・ミヒャエラ・フォン・デトワーズ姫陛下に続いて三度目である。
 いやはや、珍しい事もあるものだ。

 それはさておき。

 宰相さんは眼鏡を指で押し上げて、僕に愚痴(ぐち)(こぼ)してきた。

「全く…おかげで出会ったその場で承認(しょうにん)手続きをやる羽目(はめ)になったのは厄介でしたね。 普通なら後日やる事なんですよ、普通は」
「ひぃぃい! ごめんなさいー!」

 恐縮(きょうしゅく)すぎて(しぼ)り出た悲鳴が出た。
 宰相ほど偉いほどにそんな文句を言われたら、生きた心地がしなかった。

「いえ、姫陛下の性急(せいきゅう)さを計算しきれなかったこちらの落ち度です」
「そ、そうでしたかぁ」

 アハハ、と愛想笑(あいそわら)いをするが、どことなくぎこちなくて会話がやや(かた)い。
 そんな不甲斐無(ふがいな)い自分に助け(ぶね)を出すように、宰相さんの方から話を切り出してきた。


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