第三十一話 第一機動艦隊
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った。あの時も――。
「あなたのおっしゃっていることは卑屈にしか聞こえません。かつての尾張さんの例を出すようで申し訳ありませんが、あれほど傲慢になれとは言いません。ですが、卑屈すぎるのも駄目なのです。自分をしっかりもっておごらず、弛まず、前を向いて進むことが武人としての、そしてヤマトを護るために戦う艦娘としての姿なのだと私は思います。」
「赤城さんの言う通りだわ。」
乾いた声で加賀が言った。
「私はここに来る前にあなたに謝罪しました。それはあなたの鍛錬とたゆまぬ向上心を感じ取ったからこそ。でも、今の発言をするようなあなたでは私は先の謝罪を取り消さざるを得ないし、あなたについていこうとは思わない。」
「・・・・・・・。」
「旗艦を務めるのが嫌なのであれば、あなたは即刻呉鎮守府に帰りなさい。」
紀伊は黙り込んだ。周りで姉妹たちが不安顔で見守っているのがわかったが、彼女たちも何も言わない。赤城たちの言葉に対して反駁する材料がなかったし、見つからなかったのだろう。
逃げ場がない。そう思った瞬間に紀伊は悟った。自分は前世に記憶がなく、造られた存在であるがゆえに、他の艦娘と違い、自身がない。だから他の艦娘たちに対して卑屈に感じてしまう自分はやむを得ないのだと。だが、それは単なる「卑屈」というだけに過ぎなかったのではないか。
『私を命がけで助けてくれたあなたは最高にかっこよかったのに。その時と比べたら今のあなたは大破して沈没しかけているボロ船同然よ!』
不意に瑞鶴の言葉がよみがえってきた。そう、鳳翔との試合に対して今と同じ、逃げようとしていた自分に浴びせられた言葉だ。
『あんたはそんなに卑屈な人だったの!?』
もし、と紀伊は思った。仮に呉鎮守府に帰ったところで、利根たちは何というだろう。何もできない自分に朝から訓練に付き合ってくれ、励ましてくれた利根たちは、きっと自分を軽蔑するに違いない。利根たちだけではない。これまでずっとそばにいてくれた第6駆逐隊の暁たちも、瑞鶴も、翔鶴も、皆も――。
『私は卑屈だなんて言われたくはない。こんなところで私は終わりたくはない!!』
瑞鶴の言葉に対してそう叫んだことを紀伊は思い出していた。
(そうよね、あのとき私は大声でそう言った。今だってその気持ちは失われていない。正直怖いけれど、でも逃げ出すことの方がもっとつらい事なのだわ。)
「わかりました。」
紀伊は立ち上がって赤城を、加賀を見た。
「旗艦を引き受けさせていただきます。」
力んでいなかった。自然と声が出ていた。
「そして、必ず全員を無事に戻せるように全力を尽くします。」
再びざわめきが起こったが、今度は先の物と色合いが違っていた。赤城も加賀も何も言わなかったが、目を見れば彼女たちの気持ちはよく分かった。
「よく言った。それで
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