第三十一話 第一機動艦隊
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らにつけてきている。敵の顔も青ざめている。中でも先頭を走る嚮導艦娘らしい少女はまだ10代半ばのように思えた。
(あんな子が!?・・・・両国の思惑でまだ若い子が戦場に駆り出され、戦わなくてはならないなんて・・・でも、私たちも同じこと。初瀬姉様!!私はどうすれば・・・・!?)
このまま直進して反抗戦を演じるか、それとも――。
『三笠。』
不意に柔らかな声が響いた。小さな声だったがそれは空耳ではなくまるで静かな部屋の中で話しているときのようにはっきりと聞こえた。海上を弄するばかりの風圧にもかかわらず、三笠はその懐かしい声をはっきりと聞くことができた。
『三笠。私の優しい妹。とてもつらい気持ちは私にもわかります。』
「姉様!!まさか、そんなことって――。」
三笠は絶句した。何故死んだはずの初瀬が話しかけてくるのか。慌てて周りを見まわしても、初瀬の姿はどこにもいない。それなのに、声だけははっきりと聞こえるのだ。
「どうしたんですか!?一体――」
『時間がありません。三笠、よく聞いて。あなたはすぐに決断しなくてはならない。』
「わかって・・・るわよっ!!!でも・・・でもっ!!今ここであの戦法をとれば、みんな死んでしまうかもしれない・・・・。そんなことを私が指令できるわけが――!!」
声だけが聞こえるのに、ふと姉が目を細めた様に三笠には思えた。
『あなたは誰も傷つけたくはないのね。味方も、そして今先頭を進んでいるあの若い子も含めた敵も傷つけることなくこの戦いを終わらせる最良の方法をあなたは探ってきたのよね。』
「はい・・・。」
『その努力は大変なものだったと思う。でもね、時には私たちや敵の血を流さなくては作れない道・・・未来もあるのよ。』
「血で作る未来・・・・・。」
「距離、9000!!」
砲術妖精が叫んだ。既に敵も迎撃態勢に入り、すべての照準がこちらに向けられ始めている。いつ敵も発砲してきてもおかしくない状況だ。
『それは凄惨なものだわ。でもね、それを恐れていては駄目。一時の凄惨さも、その後に待っている無限の可能性をはらんだ未来のためには必要なことだってあるわ。たとえ今この場にいるすべての艦娘たちを犠牲にしても。』
「姉様・・。」
あの穏やかな姉がそのようなことを言うとは三笠には信じられなかった。だが、これは紛れもなく初瀬自身の声なのだと、三笠は確信していた。
『あなたのなすべきこと、それを理解しなさい。敷島型4番艦三笠。連合艦隊総旗艦、そして・・・・。』
声が遠ざかっていく。
『私の愛する優しい妹。』
声は途切れ、三笠は再び海上を吹き荒れる風の中にいた。
「距離、8500!!」
三笠は目を閉じた。あれほど荒かった胸の鼓動は収まっていた。姉が最後に届けてくれた思いを、贈り物を三笠は目を閉じ、しっかりと抱きとっていた。
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