野寺坊
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はした金でうちの子をこき使いおって。衣食住の面倒を見ているのはわしだということは忘れるな!」
「衣というのはあのコスプレ衣装のことか。20年我が子同然に育てた愛猫が少女になったとたんに己の劣情を爆発させて浅ましいことこの上ないねぇ…」
「いいじゃんそれくらい!カワイイじゃん!他に何もしてないじゃん!!」
「きじとらさんは何処だ!!」
一喝すると、じじいはきょとんとした顔で俺の方を向いた。
「だから、上で寝ておると云っておろうが」
「信用出来るか!大体、俺はあの人が元々猫とかいう戯言も」「待て待て」
さっきまでじじいと云い合っていた奉が、突如俺を宥めてじじいに向き合った。
「―――きじとらは、よく寝ているのか?」
じじいは少し顔を緩ませて、ちゃぶ台の中央に置きっぱなしになっていた煙草の箱を取った。
「おう、じじいの前じゃ寝てばっかだ。あいつが寝ているときだけ、煙草解禁だ。吸わせろ」
やがて紫煙が部屋を満たし始めた。奉も一本箱からくすねて暫く煙をくゆらせると、すっと立ち上がった。
「…邪魔したねぇ、ご老人」
「…おう、帰れ帰れ、玉が起きんうちにな」
何でだ、俺はまだきじとらさんの無事を確認していない!そう訴えて少し抵抗したが、奉はさっさと出て行ってしまった。俺はまだ文句を云おうとじじいに向き直り、その背後に目をやった瞬間…静かに、居間を出ることに決めた。
じじいの背後にあった仏壇。大事そうに飾られた遺影の中に、きじとらさんそっくりな少女が居た。
少し茶菓子を入れたら、逆に腹が減ったねぇ。などと呟きながら、奉はとぼとぼと山道を辿る。俺は何も云わなかった。云う資格は、俺にはない。
「―――きじとらは、俺の洞では眠ったことがない」
「え?だって泊り…」
「ないんだ」
押し殺したような声で、奉はぼそりと呟いた。
「…それでも、安心して眠れる場所はあったんだねぇ」
インチキ寺にえせ神社か。どうにも住処に恵まれない、きじとらさんだ。猫変化とかいうのは眉つばだが。…しかし。
「だが、いいのか」
「いいんだ。このままで」
「本当にいいのか?チンポハンター観るの多分あのじじいだぞ」
奉の歩みが、ぴたりと止まった。
「あ」
あ、じゃねぇよ。忘れてたなお前。
「それだけはシメとかないとなあのじじいめ」
俺たちは山道をとって返してじじいを襲撃したが、どこに隠れたのか、じじいはどんなに家探ししても見つからなかった。
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