野寺坊
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を確認するが、寺のマークなどない。寺を囲む雑木の群れが、いやに禍々しく揺れた。
「嘘だ」
「嘘、か。とんだ野寺坊がいやがるねぇ」
小さな寺だ。境内は掃き清められているし、荒れ果てたというほどではないが、所々荒れている。例えば…女の手が届かない、屋根の瓦とか。
「野寺坊?」
「寺のないはずの場所から、鐘を衝く音が聞こえる、読経の声が聞こえる…ま、そんな妖よ」
「だれがアヤカシか。失敬な」
心臓がぐりんと動いたかと思われた。弾かれたように振り返ると、背後に頭髪もまばらな老人が、ぼさっと立ち尽くしていた。
「野寺坊」
「妖怪扱いか、玉群んとこの坊」
奉と老人は寺門の前で睨み合った。……うわ、これ修羅場ってやつか?
「―――坊、あんた、ヒトじゃぁねぇな」
「―――妙なこと云うねぇ」
奉は老人から目を離さず、羽織りを再び肩に掛けた。老人は眼光も鋭く、尚も奉を睨み続ける。一陣の風が、老人の袈裟を揺らした。廃寺の野寺坊は、ふいに口の端を吊り上げた。
「あの子を『ヒト』にしたのは、あんたかい?」
―――ん??
「請われたら叶える。そしてあの子には、『資格』があった」
「20年生きた猫は、望めばヒトになれる」
訳知り顔でにやりと笑い合う二人の間で、俺はただ茫然としていた。
「あの子は元々、うちの飼い猫さね」
怪老人に見えた老人は、居間に通されて茶を呑みながら向かい合うと、只のじじいだった。居間も意外と整頓されているし、こまめに箒をかけているようにみえる。きじとらさんは、こっちでも働き者だ。
「それがまぁ、ある日妙にピッチピチのうっふっふになって帰ってくるじゃないの♪」
……只の、助平じじいだった。
「何をいう、あれは元々、うちの境内に居着いた猫だ」
「ちがいますー、わしが20年、子猫の頃から大事に育てた家猫ですー」
混ぜっ返すな、話が進まない。睨み合う二人の間に割って入り、俺はじじいに向き直った。
「きじとらさんはどこなんです!?あんたはきじとらさんとどういう関係なんですか!?」
「玉なら今頃上で寝ておる。あいつは夜うるさいんだ」
「タマだと!?猫の話じゃない、俺はきじとらさんの」「猫の名前が本宅と別宅とで違うのは常識だろう」「そうだぞ結貴、わきまえろ」
そこは意見が一致するのかよ!!
「それに俺たちはさっきから猫の話をしている」
―――は??
「物分かりの悪い…さっきも云っただろう。きじとらは、俺がヒトにしてやった猫だ」
「そうだ。以来、玉は時折、坊の家にも寄り猫するようになったようだな」
「ほぼうちに入り浸りだろうが」
何だろう、反りが合わないのか、いつも飄々としている奉が、妙にこのじじいには突っかかる。
「何を!
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