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霊群の杜
野寺坊
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いいのか」
いつもいつもこいつは…コトの重大さが分かっているのか。
「…冗談、冗談。変態以外の可能性としては…そうだねぇ」
それだよ、俺が聞きたかった推論は!!
「何処かの変態に騙されて借りさせられている、というところか」


―――うわぁ。最悪の推論きた。


ただ、確かに俺は前から気になっていたことがあった。
「きじとらさんの服装ってさ…正直、マニア好みだな」
「うむ。…俺じゃないぞ」
「そこよ」
彼女にあの服を選ばせ、着せている『誰か』の存在を、俺は前から疑ってはいた。ただ世間から半歩程ずれた彼女は、特に苦痛を感じていない。そしてそれは……
「何も分かっていない彼女を…」
「性欲のはけ口にしている誰かがいる、と?」
奉が俺の顔を覗き込んだ。煙色の眼鏡は、いつも肝心な時にその表情を隠してしまう。
「AVの観すぎだねぇ」
「人聞き悪いな」
俺たちが馬鹿な話をしているうちに、彼女は野菜と『さんまを2尾』買って店を出た。





「きじとらさん、買い物してたな」
彼女は自由になるお金を持っている立場なのか、という問いを込めて口を出してみた。
「玉群の本宅が、いくらか渡しているらしい」
「やっぱり雇ってるの?」
「いや。だが玉群はそういう事にしておきたいんだろうねぇ」
独り暮らしの男の家に年頃の女が入り浸りというのは外聞が悪いからねぇ…と奉が呟いた。何か分かる気がする。奉の母さんは、奉の身の回りの世話をする人が居ないことを密かに気にしている。放って置けば倒れるまで本ばかり読んでいるような男だ。古い馴染みだからといって、俺にばかりそのお鉢を回すのも、まぁ、気がひけるようだし…。
「生活が成り立つ程ではないが。まぁ、小遣い程度よ。通いだし」
「通い!?」
「泊まる日もあるが」
「聞きたくない」
「何処かへ帰っていく日もある。…庇護者の存在は、俺も気が付いていた」
きじとらさんは、徐々に人気もまばらな郊外へ向かう。俺は奉を見た。喉仏がぐびり、と動くのが見えた。…こいつも人並みに、心配などするのだろうか。
やがて、街灯すら引かれない山へ続く小道へ入り込む。まだ日は高いが、夜ともなればほぼ完全な暗がりだろう。
「こりゃ…そうとう夜目が利かなけりゃ無理だな」
「問題ないねぇ、きじとらには」
へぇ、夜目が利くのか。
「そろそろ話しは終わりだ。…人気がなすぎて、尾行も限界になってきた」
そう云って奉は足を止めた。
「ここから先は一本道だろ。時間を見て、周囲を探ろう」
俺は返事をせず、首を縦に振った。新緑の深みに水色のワンピースが消えていくのを、ただぼんやりと眺めていた。



「こりゃあ、寺だねぇ」
崩れ落ちそうな寺門を眺めて、奉が呟いた。俺はさっきから開いていたグーグルマップ
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