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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百一話 ある仮説
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んが」
俺の言葉に微かに笑みを浮かべてルッツが頷いた。
『確かにその通りです。時々自分より彼やロイエンタール提督の方が別働隊の指揮官には相応しかったのではないかと思います』
「私が選んだのはルッツ提督です。先任だから選んだのでは有りませんよ、それだけの力が有ると思ったから選んだのです。そうでなければ先任でも選びません。もっと自分に自信を持ってください」
『閣下……』
「辺境星域の支配権はこの一戦で決まるでしょう。不安は有るでしょうが私はルッツ提督を信じています。自分の思う様に戦ってください」
『……はっ。必ず敵を撃破します』
敬礼してくるルッツに答礼し通信を終了した。何も映さなくなったスクリーンを見ていると自然と溜息が出た。
「不安ですかな」
リューネブルクだった。茶化すような口調ではない、何処となく心配そうな口調だ。ルッツとは歳もそれほど離れていないし親しかったのか? 傍にはヴァレリーと男爵夫人が居る。良くないな、きちんと言っておこう、変な噂は御免だ。それにしても溜息一つ自由にならない、偉くなるのも考え物だ。
「そうじゃ有りません。私はルッツ提督に不安など感じていません」
「では」
「彼の気持が分かるんです。出来る部下を持つのも大変なのですよ」
リューネブルクがヴァレリーと男爵夫人が物問いたげな表情をしている。
「自分は彼の上司に相応しいのか、彼の方が自分の上司になるべきではないのか、そういう気持にさせられるんです。上に立つのも楽じゃない」
おそらく皆ラインハルトのことを考えているだろう。だがラインハルトだけじゃない、メルカッツ、ロイエンタール、ミッターマイヤー……。彼らの上に立つのは決して楽な事じゃない。
「閣下でもですか?」
「私をなんだと思ってるんです。宇宙艦隊では一番若輩で実戦経験も一番少ないんです。不安が無いとでも?」
不安を感じない人間も居る。自分が常に頂点に居るべきだと信じられる人間だ。ラインハルトもそうだがルドルフ大帝もそうだろう。能力は別としてある種の英雄的な気質を持った人間、支配者には向いているのだろう。後はそれに相応しい能力が有るか、或いはそれを持った部下を持っているかどうかだ……。
「どうやってその不安を抑えているのでしょう、教えていただけますか?」
男爵夫人が興味深げに問いかけてきた。相変わらず好奇心が旺盛な事だ。
「張り合わない事、でしょうね。私の仕事は彼らに武勲を立てさせる事で、彼らと武勲を競い合う事ではない。彼らに私の下でなら安心して働ける、武勲を立てられる、生きて帰る事が出来る、そう思わせる事が私の仕事です」
「なるほど」
そうは言っても簡単じゃない、頷いているリューネブルク達を見ながら思った。競争心の無い人間などそうそう居る
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