暁 〜小説投稿サイト〜
「晩秋の月だけが。」
月夜の籠城戦
[3/6]

[1] [9] 最後 最初
門だけが攻撃が弱い。

火薬の臭いと乾いた銃撃音、
法螺貝、陣太鼓、怒号、雄叫び…。

悲鳴と絶叫。




昼前。
本丸より
戦況を眺めながら若殿は、

「猫殿、敵は?」

「おそらく五千。
東の今川の押さえからも
引っ張って来たに
相違無い。」

「十倍か!!笑」

「なんの、一人、十人討てば
良いのでござる。笑」



その時、衣擦れの音が近付いて、
辺りに佳い香りが満ちた。

「義房殿。」

…里香姫だ。

「あ、姉上、」

「ちと、猫殿にお話が、」

「姫様、戦の最中でござる、
姫様には二の丸より、
本丸に御移り頂いた方が、」

「姉上、是非、そうして、、、」

「猫殿は父上から
何も聞いてはおりませぬか?」

「は?何を?」

「義房殿は?」

「…いえ…。」

「そうですか…。」


「御注進!搦手門、坂下殿より!
援軍依頼!!」

「では、殿、拙者が。」

「行ってくれますか?」

「月見の門の兵を御貸し下さい、
あそこは敵兵が薄い。」

「猫殿、討死は許しませんよ、
そなたが亡くなったら
そなたを兄とも慕う義房が、」

「無論、承知、死ぬ時は
必ず、殿と共に、、、、
必ず戻ります、御心配無用。」




…姫様のあの目は?…。



…本丸から見る限り、
お館様は出陣していない。
伊勢崎志摩守兄弟と応援部隊。
伊勢崎志摩は野戦は得意だが
城攻めは苦手のはず。
必ず付け入る隙は有る。

正直、このままでは
勝ち目は無い。

鎌倉以来の名家も
謀叛人の汚名を着せられて
滅亡だ。

山野家と俺の生きる道は?


情報が欲しい。
城を囲まれて、
何の情報も入って来ない。



夕刻、敵兵の攻撃が止んだ。


…疲れた。
城壁を乗り越えて来る
敵の雑兵を何人斬ったのか。




…城兵はよく戦い、
城は持ちこたえたが
先の無い戦いに兵の疲労は
重かった。

援軍も無い籠城である。




夕げ。
兵糧米を掻き込みながら若殿が、

「猫殿、月見の門の攻撃が緩い。
あれを突破して討って出よう。
兵の士気が下がっておる。」

「殿、あれは伊勢崎志摩の作戦、
城門を全て固めては
城兵は死に物狂いになる、
わざと手薄な場所を設けて、」

「百も承知。
猫殿、このままでは、じり貧です。
集落と作物を焼かれて
兵の逃亡が、、、」


殿の表情が曇る。
明るい、優しいお方の。
…心が痛い。

敵の罠だと解っていても。

「討って出ましょう、
山野殿でも、そうしたはずです。
[1] [9] 最後 最初


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ