12. 夕方5時 〜電〜
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議と、今日はこんなことばかりを考えてしまっていた。
「よし。行くかイナズマ」
「はいなのです」
私が書いた『しゅうせきち』という名札がつけられたジャージを着た集積地さんと共に、私は資材貯蔵庫を出た。
食堂までの道のりの途中、演習場の前を通った。
「あ……」
「夕焼けなのですー……」
すでに赤城さんと子鬼さんたちは演習場からいなくなっていた。演習場はとても静かで、時々聞こえてくるのはちゃぷちゃぷという波の音だけ。夕日に照らされた海面がオレンジ色に輝いて、それがとてもキレイに見えた。
でも。
「……イナズマ」
「はいなのです」
「私はな。ここに来て、海の色に驚いた」
「そうなのです?」
「私が住んでいたとこは、海が赤いんだ。でもここの海はいつも青い」
「そういえば、集積地さんと戦った海域の海はちょっと赤かったのです……」
「だろ? 小さな違いだが……ここに来たばかりの頃の私は、それがとても不安だった。なんだか遠いところに来たみたいでな」
「……」
「帰れないんじゃないか……死を覚悟した身のはずなのに、そんなことばかり考えていたよ」
集積地さんは、水平線のその先の夕日のさらに向こう側を見つめて、私に静かにそう言った。
私は覚えている。あの“あなたと空を駆け抜けたくて大作戦”の時、集積地さんは夕日を見て、とても懐かしい物を見つけた時のような表情をしていた。メガネが夕日を反射してよく見えなかったけど、ひょっとしたらその時、集積地さんは泣いていたのかも知れない。
「はじめてこの夕日を見た時……オレンジ色に染まった海を見た時、故郷の海を思い出した」
「集積地さん……」
「ここに来てまだそんなに経ってないのに、なんだかもう長い間ここにいるような気がするよ」
「……」
「みんなは元気かなぁ……」
集積地さんの横に並んで、一緒に夕日を眺める。私達は自然と手をつないでいた。……ウソだ。集積地さんの方は自然とつないだのかも知れないが、私は意識して集積地さんの手を掴んだ。
「……」
「……集積地さん」
「ん?」
なぜなら、私が次の言葉を口にするには、とても勇気がいるからだ。
私のよびかけに対して、集積地さんは穏やかな笑顔でこちらを見つめ、返事をしてくれた。夕日に照らされ、集積地さんの顔はとてもキレイに染まっていた。
集積地さん。私に勇気をください。
「……」
「? 呼んでおいてだんまりか?」
「……」
「……まぁいいさ」
「……帰りたいのです?」
精一杯の勇気を振り絞り、あともう少しの勇気を集積地さんの手のぬくもりから借りて、私はその一言を口にした。答えを聞きたくはないけれど。私は集積地さんと離れたくはないけれど。
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