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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 34
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なら、私も……嬉しい」
 背中に回された腕の力が強くて、ちょっとだけ息苦しい。
 でも、本当に苦しいのは呼吸じゃない。
 「……はい」
 お父さんとお母さんが床に臥せた直後、身に覚えが無い過去で存在を否定されてると気付いた当初は、誰かの笑い声を聞く度に心臓が冷たくなって酷く痛かった。苦しかった。
 だから、胸の奥が悲鳴を上げるのは悲しくて寂しい時だけだと思ってた。
 けど
 (……嬉しくても、苦しくなるんだ)
 優しい人がいる。熱を分けてくれる人がいる。失くしたくないと感じるものに出逢ってしまった今この瞬間の、なんという幸福。なんという恐怖。
 たった一人で立ち尽くすあの子は、心を溶かす温もりがこの世界には在るんだと、知っているのだろうか。
 (仲良く……なりたいな)
 手を繋いで笑い合えたら、お人形みたいに可愛いあの子はきっともっとずっと可愛くなる。
 寂しそうな背中も、見えなくなるよね?
 「……アルフィン」
 ハウィスさんと並んでアルフィンの後ろに立つ。
 ゆっくり振り向いた色違いの虹彩が私を見上げ、こてんと傾いた。
 「私、ミートリッテ。これからハウィスさんのお家でお世話になるの。ねぇ……私と、友達になって……くれる?」
 突然の申し出に、アルフィンはきょとんと瞬き
 「……はい。よろしくお願いします」
 大人もびっくりの綺麗な姿勢で頭を下げた。
 再び持ち上がった顔は無表情だけど、よぉく見ると白い頬にうーっすら赤い色が付いている。
 (やっぱり。すごく、可愛い)
 寂しげに一人佇む、私とそっくりな境遇の女の子。

 どうかあなたも、温かな幸せに包まれますように……



 「教えてください、殿下。貴方は御存知なのでしょう? アルフィンを産んだ女性が、元々「何処で」「何を」していたのか」
 濡れた瞳で正面の男性を見据える。
 彼はゆっくりと目蓋を閉じ……一拍置いて、開いた。
 「南方領東北部のシアルーン男爵家三女・ウェミア=シアルーンは、同東北部子爵領領主・マルペール子爵に仕える侍女の一人……だった。十三年前、ブルーローズが子爵の私財を盗んだ数日後に解雇処分を受け、更に後日、豪商と政略結婚したが三ヶ月と保たずに別居。十ヶ月を待たずに離婚して以降、十一年前に自殺騒動を起こすまで何をしていたのかは、詳細を話す必要を感じない」
 三ヶ月。
 個体差はあれど、人が人を宿したと気付くのは大体その頃だろう。
 つまり、アルフィンは……
 「…………ふ……ふふ……っ……」
 腹の底からふつふつと何かが沸いてくる奇妙な感覚。
 それは少しずつ体内を這い上がり、抑えようとする喉を震わせ、唇を笑みの形に歪ませた。
 ああ……これには最近馴染みがある。
 自分への 嘲笑 だ。

 「あっはは
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