Side Story
少女怪盗と仮面の神父 34
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ど嫌悪した。
いや、産まれたばかりの赤子に向かって存在の消滅を強いる呪詞を喚き散らす様はもう、憎悪と表現するべきかも知れない。
母子を無理矢理一緒に居させても、待っているのは悲惨な最後だ。
行商人は、犯罪行為になると解っていながら女性に銀貨数枚を渡し、赤子を引き取った。
やがて床上げした女性は、与えられた数枚の衣服と僅かな食料とお金を持って行商人の元を去り、行商人と共に宿を出た赤子は、以前から取引を通じて親交があったグレンデルの家に託される。
しかし、グレンデルの妻ティルティアは、赤子を引き取る数ヵ月前、遠海組が漁へ出ている間に深夜の自宅で階段を踏み外し、助けが遅れた為に流産してしまったばかり。
深い喪失感と罪悪感に苛まれた不安定な精神状態で他所の子供を受け入れられるのか? と、周囲は心配したものだが……彼女は、グレンデルと二人でアルフィンと名付けた赤子を心から愛し、大切に護り育てていた。
ハウィスさんは、四年前に遠くの街でアルフィンの生母と顔を合わせていて、それに気付いたのはネアウィック村でアルフィンと出逢ったからだと話してくれた。
(たくさんの男の人に体を売った……)
娼婦や売女といった直接的な言葉こそ使わなかったけど、ハウィスさんの説明はすんなり理解できた。
何故なら
(あの子は私と同じ、なんだ)
バーデルの町の人達が、私のお母さんは戦地でお父さんと出逢って身受けされるまでたくさんの男性に体を売っていたんだぞと、尋いてもいない内容を言い逃れできない証人付きで、事細かに教えてくれてたから。
「仲良く、なれるかな?」
繋がれてるハウィスさんの手がぴくりと震えた。
覗き込んでくる群青色の目が丸いのは多分、驚きの所為だ。お母さんと同じ類いの肉親を持つ人間が周りにどんな目で見られるかは、身を以て知っている。
(ハウィスさんも……近寄っちゃ駄目って言うのかな)
私の母もそうでしたと言ったら、手を振り払って「気持ち悪い」と罵倒するだろうか。足を引っ掛けて転ばしたり、髪を毟り取ったり、生ゴミや家畜の糞尿を頭に被せて楽しそうに笑うのだろうか。
(それは……嫌だ)
もう、すっかり慣れてた筈なのに。
一時でも温もりをくれたハウィスさんにだけは、されたくないと思ってしまった。
せめてあと少し、太陽が目を覚ましてる間だけでも離さないでいて欲しい……なんて。帰る場所を持たない自分には、贅沢すぎる欲望か。
「……ええ」
「!」
指先が離れた。
やっぱり……と、手のひらを撫でる冷たい風にちくっと心臓を刺された瞬間。
仄かなミントの香りが鼻の奥をふんわり優しく擽った。
柔らかな熱と感触が、強張った体を包み込む。
「きっと、仲良くなれるわ。貴女が彼女の手を取ってくれる
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