10. あなたと空を駆け抜けたくて(前) 〜赤城〜
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気持ちのいい朝。眩しい朝日。冷たいけれど冷たすぎない引き締まった空気。周囲に漂う草と朝露の香り……すべてが気持ちいい。寝ぼけ眼の私の身体を、この気持ちのいい朝の空気がしっかりと覚醒させてくれた。
このような気持ちのいい朝に何もいなのはもったいない。私は久しぶりに朝食前の演習……というよりも朝の稽古をすることにした。
いつもの赤い弓道着を身につけ、私は弓道場へと足を伸ばす。この時間はまだ起きている子はいない。故に鎮守府は静寂に包まれている。廊下に鳴り響くのは私の足音だけだ。
弓道場に入る。空気が更に引き締まり、私の身体が緊張につつまれた。今でこそ提督から鎮守府内でも最強という評価をいただいているが、以前は鳳翔さんにこうやって朝に稽古をつけてもらっていた。あの時の、鳳翔さんの厳しくも愛情が感じられる朝の稽古のおかげで、今の私がある。
「懐かしいですね……」
あの時のように稽古をしよう。弓を構え、矢をつがえて引き絞る。矢を引き絞りながら、同時に世界を私と的だけに引き絞っていく。視界が狭まり、私の目にうつるものが的だけになっていく。
「……」
私の矢が描く線が、的の中心に正確に届くのが見えた。しかし焦らない。その線は未だ位置を定めていない。さらに私自身の意識を尖らせ、かつ拡げる。今まで狭まっていた世界が逆に広がる。木々のざわめきが聞こえる。背後にある弓の数が見える。見えてないはずの時計が指し示す時刻は午前六時。ここからは見えないはずの海の様子が見える。波が高い。小さな風のうねりを感じる。食堂から漂う朝食の香りを鼻が捉える。どうやら今日の朝食当番は鳳翔さんではないようだ。
狙いが定まった。私は今、世界のすべてを認識した。
「……ッ!」
矢を放つ。私に見えていた射線の通りに的に向かって矢は飛翔し、的の中心へと正確に刺さった。
そうしてしばらくの間、的の中心を矢で正確に穿ち続け、10本の矢で的の中心を正確に撃ちぬいたところで、稽古を終了した。
「上々ね」
自分の腕が衰えていないことへの安心と、自分が捉えたとおりの結果を私自身が出せたことに対する心地よさを感じ、私は的を見つめ……
「キャッキャッ」
「?」
そしてもぞもぞとうごめく違和感のようなものを感じ、足元を見た。
「……子鬼さん?」
「キヤァァアアアアア」
私の足元に子鬼さんがまとわりついていたことには気づかなかった……まだまだ稽古不足といったところか……よく見たら、私の足にしがみついている子鬼さんは、天龍さんのものにそっくりな眼帯をしていた。目じゃなくて頭に帽子のようにかぶっているけど。
「……天龍さんの眼帯?」
「キャッキャッ!」
「もらったんですか?」
「フフ……コワイカ?
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