第三章 エリュシオンの織姫
最終話 紡がれた未来へ
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稲城市山中。
「……」
陽の光が網を抜けるように僅かに差し込む、新緑に包まれた自然の砦。その森の中を歩む一人の男は、神妙な面持ちで道無き道を進んでいた。
金色の髪や蒼い瞳を持つ、壮年の男性。彼は林の奥を突き進む中で見つけた、あるものと対面すると――嘆息するように息を吐く。
「……科学に善悪を判断する力はない、善悪を分けるのはいつも人間……か。結城博士の仰る通りだな」
彼の眼前に映る――重戦車と小型乗用車の残骸。かつて正義と悪に分かれ、熾烈な争いを繰り広げたこの二台の車は今、一様に鉄屑として朽ち果てている。
車体のあちこちから苔や雑草、果ては花々まで咲いていた。善悪に分かれていようが、壊れてしまえばどちらもガラクタ――という非情な現実を物語っているようだ。
そしてその現実こそが、正義と悪を分かつものに科学の関与はないのだと訴えている。
シェードも仮面ライダーも、元を辿れば源泉は一つ。人間を超える超人を生み出す科学が、シェードという悪を生み、仮面ライダーという正義を生んだ。
そのぶつかり合いの果てに待っていたのは、共倒れ。対消滅の如く、どちらも残らないこの結末は、人類の進歩を押し留めていると言えるだろう。
だがそれは、争いの虚しさを伝える福音として、残された人類が手にした叡智の一部となった。
「……我々は。この戦いを教訓に、前へ進む。君達の骸を、踏み越えて」
この光景から決意を新たにし、男は踵を返して行く。一歩一歩、草木の上を強く踏みしめて。
「だから君達は、静かに眠りなさい。もう……誰も、君達を振り回したりはしないから」
教訓を残すために犠牲となり、朽ち果てた二台の車。
雌雄を決するべく激突した二人の男を乗せていた、この二つの鉄塊を一瞥した後――男は正面へ向き直り、前に進んでいく。
もう、振り返ることはない。
立ち去った男の後ろでは――花と草木に彩られた屑鉄達が、今も沈み続けていた。
二度と醒めることのない、安らかな眠りへ。
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