第三章 エリュシオンの織姫
第6話 過ち
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ないから」
その口から出た言葉は。アウラが心の奥底で求めていながら、決して口にできない願いでもあった。
無意味には終わらせない。悲劇だけにはさせない。その確かな決意を秘めた眼差しが、正義を失った聖女を射抜く。
全ての力も肩書きも残らない、ただの少女としての彼女が、その胸で啜り泣いたのは、その直後であった。闇を内に秘め続け、瓦解寸前だった精神は遂に決壊し、濁流のように溢れ出す感情だけが彼女を慟哭させる。
嘆きとも感涙ともつかない、その雫を拭いながら。彼はただ、何よりも護りたかった少女の体を、その胸に抱き寄せていた。
そんな彼らの様子を、金髪の美男子は静かに見守っている。
(……妹の恩人である彼らに、私は何一つ報いることが出来なかった。そればかりか……その絆を引き裂こうとまでしている。……この私も含め、救い難い限りだな……人類という生き物は)
人類の平和のために戦っていたはずの彼らは、その人類に裏切られ――それを知りながら今、再び立ち上がろうとしている。
それに対し、大恩があるはずの自分達は全てを知りながら、直接加勢もしないばかりか二人を永遠に引き裂こうとまでしている。
これ以上、愚かな話が果たしてあるだろうか。
(だが、それでも私は……こうするより他はないのだ。彼女自身が願った人類の平和のためには、こうするしか……!)
その罪深さを知ってなお、ロビンは是非もなく咎人の道を突き進む。彼女の願いを、在るべき姿に僅かでも近付けるには、これ以外に手段がないのだから。
(全ては、我々の弱さ故……。それでも――今は、願うしかない)
番場総監もまた、同じ心境であった。愛する娘を、迫る死の運命から救うため。彼は覇道と知りながら、その道に片足を踏み入れる。
(今の我々に出来ないことを……君達がやってくれ)
◆
――2016年12月12日。
東京都稲城市山中。
寒風が吹き抜ける曇り空の下。風を浴びて揺れ動く無数の葉が擦れ合い、さざ波のような音が絶えず林の中に響いている。
その木々に囲まれた地上は落ち葉に覆われ、土に還らんとする自然の摂理が、枯れた葉を無の境地へと導いていた。
――しかし。その大自然を脅かす侵略者は、唐突に現れる。
落ち葉が舞い、土砂が飛び散り、天を衝くように根と葉が噴き上がる。さながら、噴火のように。
衝撃音と共に地中を破り、外界へ乗り出したその物体――白塗りの重戦車は、キャタピラで地上へと乗り上げて行く。
その様子はまるで、地の底から蘇った怪獣のようであった。
(……いよいよ、この日が来たか。俺が本来の性能を維持出来る、最後の日。今日を生き延びたとしても、俺の命は燃え尽きた蝋燭のように消えゆくし
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