第二章 巨大怪人、鎮守府ニ侵攻ス
第1話 闇夜を貪る異形の影
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へと手を滑らせる。……その時だった。
(……んっ……!?)
ぬちゃり。
そんな擬音が似合う、「何か」が川内の手に纏わり付いた。その違和感を敏感に感じ取った彼女は咄嗟に手を引き――彼女の足元が大きく波打つ。
『川内姉さんっ!』
『大丈夫っ!?』
その反応を目撃した神通と那珂が、何事かと声を震わせる。普段なら、ここで強気に笑って元気付けるところであるが……今の川内に、そんな余裕はない。
「……!」
手に纏わり付く鮮血の滴りに、戦慄している今の彼女には。
自分の手についたのがチ級の血だと気づいた川内は、その感触を覚えた部位――肉体の上半身と機械の下半身を繋ぐ腰周りに、視線を移す。
チ級の身体自体が暗い色であるためか、彼女の夜目でも中々見えない部分だったが……徐々に、その全貌が見えてくる。
そして。
「……ひっ!?」
見えた。
見えてしまった。
腰から無惨に食いちぎられ、「中身」を剥き出しにされたチ級の傷口が。
歴戦の艦娘らしからぬ声を漏らし、川内は思わず背を仰け反らせる。すると、先ほど川内が揺らした海面にバランスを狂わされてか、チ級の身体が大きく傾いた。
このまま倒れ伏して行く。誰もが、そう思う動きだった。
だが。このチ級は、違っていた。
「……あぁ……!」
食いちぎられた腰周りは、もはや骨も残っておらず……僅かな肉が繋がっているに過ぎなかった。そのためか、傾いた勢いで倒れたのは――チ級の、上半身のみであった。
血糊を撒き散らしながら、うつ伏せに海面に伏したチ級の上半身は、そのまま暗黒の海中へと没する。
それから僅かな間をおいて、残された下半身が上半身とは異なる方向に倒れ――沈み始めた。
『こ、これって……!』
『どど、どうなってんの!?』
目の前で起きた現象に、神通と那珂も困惑の表情を浮かべる。川内は反応する余裕もなく、ただ呆然と上下に分かれたチ級の遺体が水没していく様子を、見るしかなかった。
(このチ級は私達を引き付けていたのでも、眠っていたのでもない。何者かに、すでに喰い殺されていたんだ……。誰が……!?)
だが……海中に消えゆくチ級の上半身を見つめていた彼女は。ふと、あることを思い立ち我に返る。
「神通、那珂! 下を照らせ、海中だ!」
『えっ!? し、下ですか!?』
『な、なんで!』
「いいから早く!」
そして妹達に指示を送りながら、手にしたライトを海中に向ける。長女の切迫した声に、妹達はただ従うしかない。
底の見えない暗闇そのもの。
そこへ差し込む三つの光は――彼女達三人に、凄惨たる光景を映し出していた。
「……!」
川内も。神通
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