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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百九十八話 負の遺産
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あれが皇帝になっても誰も従わぬ。自ら傀儡皇帝になると宣言したようなものじゃ……」
「……」
父は首を振っていた、声には徒労感がある。
「挙げ句の果てに後ろ盾の無い息子を産んで死ぬとは……。帝国の崩壊を決定したようなものじゃ。済まぬの、そちたちを嫁がせた事が反って仇となってしまった、あのたわけが……」
「……」
「予とて、兄と弟が死んだから皇帝になった。殺さなければ殺される、ルードヴィヒはそう思ったのかの……」
「そうかもしれませぬ」
問いかけるような口調で父が私を見た。何処と無く遣る瀬無さそうな表情だ。父は帝国の滅びを少しでも先へ伸ばすために手を打った。しかしルードヴィヒは父のその想いを理解できなかった。ただひたすら皇位を望んだ、或いは生き延びることを望んだ。
帝国が滅ぶなど考えなかったのかもしれない。愚かだとは言えないだろう、私だって帝国が滅ぶなど考えなかったのだ。むしろ帝国が滅亡すると思った父のほうが異常だ。父は凡庸ではなかったのか、私達に見えない何かを父は見ていたのだろうか?
「帝国は滅ぶ、貴族達はブラウンシュバイク、リッテンハイムを中心に徒党を組み始めた。おそらくは内乱が起き、政府の統制力は衰え分裂し崩壊する。もう止める術は無かった」
「そんな時、あの者に会った。ラインハルト・フォン・ミューゼル。誰もが予に媚び、少しでも私腹を肥やそうとする中、あれはまっすぐに予に、そして貴族達に憎悪を向けてきた、心地よかったぞ。あの憎悪と覇気、才能。あれならばこの帝国を再生、いや新たに創生させるかも知れぬ、そう思ったのだ」
父は嬉しそうな表情をしている。私は思わず父に問い掛けていた。
「お父様はそのためにローエングラム伯を引き上げてきたのですか?」
「そうだ」
「ゴールデンバウム王朝が滅んでも良いと?」
思わず父を責めるような口調になった。ゴールデンバウム王朝が滅ぶ、それは私達も滅ぶと言う事、父はそれを望んだのか。私の言葉に父は哀れむような表情を浮かべた。
「違う、そうではない」
「?」
「ゴールデンバウム王朝など滅びるべきなのだ!」
「!」
強い口調で発せられた父の言葉に思わず身体が凍りついた。父は、皇帝フリードリヒ四世は帝国を憎んでいたのか……。重苦しい空気が私達を包み込んだ。
「全人類の支配者にして全宇宙の統治者、天界を統べる秩序と法則の保護者、神聖にして不可侵なる銀河帝国皇帝……、笑止よの」
そう言うと父は顔を歪めて笑った。禍々しい、自分の言葉を侮蔑するかのような笑い……。
「人類の歴史の中でゴールデンバウム王朝ほど忌わしい王朝は有るまい。ルドルフ大帝が創ったこの帝国は人類を二つに切り裂いた……、帝国と自由惑星同盟にな。二つの国は百五十年に亘って戦い続け、憎悪を募ら
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