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赤翔玄-剣を握りし果てに-
第2話 雛罌粟-運命の輪-
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この様な女性の匂いの耐性は俺にはまるで無い。それどころか、こんなに訓練や戦闘以外で、こんなに自分の近くに女性がいる事なんて無かったので、俺の心臓は厳しい調練の時よりも激しく脈打っていた。

「知っていますか? 初対面じゃないんですよ、私達」
「……残念ながら貴女と何処かで出会った記憶はありません。忘れている……でも、貴女の様な、一目見ただけで記憶に残る美人に何処かで会ったら忘れないと思うんですけど……失礼ですが、何処で御会いしましたっけ?」
「……そうですか、それは残念ですが仕方がありませんね。でも、私と何処で会ったかは二人だけの秘密です。御自分で思い出して下さいね。私達にとって、とても重要で何よりも大切な事ですからね」
「えっ?」

 そんな頬を赤く染めて言われても……何も思い出せない所か、実は彼女の名前も知らない俺。
 一体、何処で会ったと言うんだ。毎日、毎日、調練と訓練の記憶しかない。
 偶に街に出ても目的以外の事はしないし……酒に酔った勢いで何処かで会った彼女に何かしたのか、俺…………いや……そもそも、俺は酒なんて自分から飲まないし、二月前の大宴会の席で同僚から無理矢理飲まされたぐらいで、しかもあの時は酔っぱらっても無かった。
 ……実は同郷だったりして……いやいや、もっと在り得ない。
 地元の事で知らない事なんて俺にはないし、こんな華やかで目立つ美人がいたら嫌でも周囲の者は気付くし、直ぐに、俺の耳に噂で伝わって来る筈だ。

「あ、あの……」
「私の名前は店と同名で“雛罌粟”と言います。“真名”ではありませんので、どうぞ、お気軽に読んで下さいね、翔玄さん。では、失礼しますね。私には仕事がありますから――」
「ちょ、ちょっと!」
「はい、お待ち同様。炒飯、焼き餃子、炒め野菜の盛り合わせ」

 目の前には注文した料理がずらっと並ぶ。どれもこれも美味そうな料理だが……心の中がすっきりしないし、何か、物凄くモヤモヤする。それに背後から鋭い複数の視線が俺の背中に深々と突き刺さる。今後の訓練に多大な影響が出そうだ。それに彼女からもっと詳しい話を聞かないとこのモヤモヤはきっと未来永劫消えないだろう。
 しかし、彼女と話す為には“雛罌粟”に足を運ばなければならないぞ、困ったなぁ。

「ふふっ、また、この店に足を運びたくなっただろう?」
「ま、まさか……女将さん……」
「覚えておきな、“この世に無料より高い物はないのさ”。何、心配する必要ないぞ、家の商売敵である“春風”に毎日の様に通っている顧客を家が奪っただけだ。それにお前の散歩の距離が長くなるだけだ。何も文句はないだろう。勿論、お前には特別料金でアタシの料理を振る舞ってやるぞ、光栄に思え」
「……で、あの女将さん。さっきの雛罌粟さんは演技ですか、本当なんですか?」

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