第2話 雛罌粟-運命の輪-
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店の方に御迷惑をお掛けしている様で……」
この人の瞳や声色からして本気で言っている事が伝わって来る。よかった、何とか慣れて貰って……知らない場所で知らない人から何かしらの恨みを買うって恐ろしいな。これからは背後に十分に気を付けて歩く様にしよう。
「別に小僧、お前を責めている訳じゃないさ……寧ろ、少し感謝しているくらいだ。この馬鹿共は“江東の虎”の私兵になれた当初はな、それはもう大喜びして連日騒いでいたよ。しかしね、直ぐに、“巨大な壁”に押しつぶされたんだ。側近の四人の部隊に入れなかったのさ、勿論だが孫文台の親衛隊にもね。意気消沈も良い所でね、ただ一度、蹴躓いただけで何もかも諦めやがったのさ。以降、連日の様に下らない話と気に入らない上司、同僚、新兵の陰口を吐き出す事や、他人の足を引っ張る作業に徹する様になったのさ。幾ら、この馬鹿共が天下のお客様だと言ってもね、人の陰口ばかり叩く様な心根の腐った人間に飯を振る舞う趣味は無いんだよ。ある日、この馬鹿共がアタシの店に来た時に、まとめて叩き止めしてやったのさ。アタシはそんちょそこらの兵士よりも腕っ節は強いからね」
「えっ……それは……何というか……凄いです、ね」
「ボロ雑巾の様にして店の裏にほっぽり出してやった、その日を境に“出禁”にしてやろうかと考えたが、止めたんだよ」
「……どうしてですか?」
「アタシにボロ雑巾の様に叩き止めされて、わんわん、泣いてたんだよ。大の男にしては情けなくて人生の汚点になるかも知れないが、あの馬鹿共は他人と違って真直ぐ生きられない自分の人生を悩み、悔しがり、情けない今の醜い自分の姿を責めて、正直に泣ける人間だと分かったからさ」
「……成程」
「それからね、暫く家の店に来なかったんだよ……でも、数ヶ月後に、今まで見た事も無いくらいにボロボロの姿になった馬鹿共が現れた。アタシは思わず、馬鹿共の傍に駆け寄って声を掛けたよ。「何が遭ったんだい!」ってね、そしたら、昔から家の店の常連客だった、ある兵士がアタシに一言「負けたくなかったんだ」と言ったんだ。アタシはねぇ、聞けなかったんだ。それが何に対して“負けたくなかったんだ”って。でも、馬鹿共が店の中に入って来るなり、“項翔玄”、“項翔玄”とあんなに嬉しそうに語る姿を見て、直ぐに、分かった。やっと、この馬鹿共は明確に勝ちたい、追いつきたい、あの様な人間になりたいと、そう思える様な者。また、冷めていた心を再び熱く煮え滾らせてくれる様な相手が身近な存在として自分達の目の前に現れたんだとね」
「あの良い話の所ですいませんが……そろそろ、恥ずかしいので勘弁して貰えませんか?」
「ふふっ、別に構わないぞ……しかし、お前の様な小僧の何処がいいのかねぇ?」
「さぁ、俺にもさっぱり分かりませんよ……ただ、俺は……俺を凄い奴だと信じてくれ
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