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豹頭王異伝
邂逅
大元帥の奪還
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(ナリス様、ギールから報告!
 ベック公ファーンの身柄を、グイン殿が確保されました!!)
 ジェニュア神殿で説得を試みた後、レムスと対面する為に聖王宮へ赴いた誠実な従兄弟。
 パロ聖騎士団の総司令官、大元帥の称号を贈られた正義感の強い武人の面影が脳裏を掠める。

(グインが彼を救出してくれるとは天の助け、白状するが私も想定していなかったよ!
 豹頭の超戦士なら一片の傷も付けずに取り抑える事も可能だろうが、ファーンの状態は!?)
 魔道師の塔に所属する者の義務として、聖王家の成員を護る事は総てに優先する筈であるが。
 夢想家と異なり灰色の眼は動揺の色を見せず、冷静(クール)な思考回路に徹する心話が閃く。

(外傷は皆無ですが状況は深刻、外界に対する反応は鈍く意識の有無も確認出来ません。
 光る胞子の術で透視を試みた所、広範囲に魔の胞子が蔓延り既に相当量の脳細胞を浸蝕と推察。
 直に確認して参りたい処ですが些か簡単過ぎますね、ナリス様を誘拐する為の罠とも取れます。
 暫く経過を観察の後、処置を決めた方が良いでしょう)

「イシュトヴァーン、私の我儘を聞いて貰えないだろうか。
 誠に済まないのだがね、突発事態が生じてしまった。
 数ザン程で戻って来られると思うが、マルガに飛ぶ必要がありそうだ」
 ナリスは運命共同体の機嫌を読み隙を窺い、小休止の際に話を切り出した。

「何だよ、話が違うじゃねぇか!
 俺と一緒に来てくれるって話だったから、グインの顔を立ててやったんだぜ!!」
 突然の別行動を告げられた中原の風雲児、ゴーラ王は予想通り獰猛な唸り声を上げる。
 不機嫌な表情を隠さぬ僭王を眺め、困った様に微笑む闇と炎の王子。
 闇色の瞳が満更でも無さ気な満足気な光を湛え、黒曜石の如くに煌めいている。

「パロは嘆かわしい事に現在只今の所、大変に深刻な人材不足に陥っているのだよ。
 ベック公ファーンは数少ない聖王家の一員でね、私と同様に回復して貰わないと困る。
 万一彼が復帰出来ぬとなれば、パロ聖騎士団の指揮を執る者は私しか居なくなってしまう。
 その点では元気に充ち溢れた若者、多数の精鋭達を抱えている新興ゴーラ軍が羨ましい。
 パロ軍の指揮は他の者に執らせ、イシュトヴァーン陛下に同行する為と御理解を戴きたいね」

 聖王家随一の魔術師、実践心理学と社交会話術の達人は言葉巧みに良く似た魂の持ち主を説得。
 赤い街道の盗賊、無法者(バスタード)に相応しい論理(ロジック)を選択。
 贖罪の羊《スケープ・ゴート》に好適な人物の筆頭は、パロ聖王家の中で唯一の武人。
 真面目で素直な性格の従兄弟ベック公は、ナリスの《身代わり》に最も相応しい。
 パロ解放軍の指揮権を委ね、イシュタール訪問を実現する為の布石と強調
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