第1回 惰性のサクソフォン 中編
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自宅の最寄り駅から、10分ほど電車に揺られ目的の駅で改札を出る。
改札の前には、和樹と同じ新入生と思わしき男女が皆同じ方向に向かって歩いていた。
和樹も、その流れに沿うように同じ方向へとゆっくりと歩き出す。
駅から学校までは、およそ10分ほどだ。そう時間がかからないうちに到着するだろう。
大通りを抜け、住宅街に入るとあとは桜並木の一本道のみ。
桜並木は、和樹達新入生の門出を祝うかのように満開の花が咲き誇り、風に揺られて舞っていた。
その桜並木に差し掛かったところで、和樹は桜の花びらの向こう側に
くせ毛の目立つ、ポニーテールの少女を見つけた。
少女は、おもむろにしゃがみ込むと足元の花びらを掌にのせ、一息で吹き飛ばした。
その光景を見ながら和樹は、どこか冷めた視線で見ながら思う。
「(何かに期待できるって、本気になることと同じくらい幸せなことだよな。)」
そんな詩人めいた思考を、しながら和樹は少女から視線を外し学校への道を歩き出した。
しばらく歩き、学校の校門をくぐると新入部員を獲得しようと多くの部活が呼び込みを行っていた。
「新入生のみなさん!サッカー部に入って一緒に気持ちのいい汗を流しませんかー?」
「ぜひ、テニス部に入って、青春のひと時を過ごしませんかー??」
サッカー部に、テニス部、バスケットボール部など運動系の部活をはじめ
文芸部、美術部、科学部といった文科系の部活も、
ありとあらゆる部活動が、校門の左右に分かれ新入部員の勧誘を行っていた。
当然その中には、もう二度とできない野球の勧誘も存在する。
「新入生の諸君!!野球部に入り、一緒に甲子園を目指そう!!」
その声が耳に入って、和樹は思わず左膝を手で押さえた。
あの時無理しなければ、いやそもそももう少し先のことを考えられていたなら、きっと今でも野球ができていたんじゃないかといった、たらればが思い浮かんでは消える。
そんな後悔の念が、傷も完治し負担もかかっていない左膝に痛みを走らせる。
「新入生の皆さん!北宇治高校へようこそ!」
透き通るようなそんな声が聞こえ、和樹はそちらに意識を向ける。
その先には、黒い髪の女性を先頭に大小様々な楽器を手に持った生徒が並んでいた。
「あ、吹部か……」
和樹がそうこぼし、足を止めるのと同じように
新入生だと思われる生徒が何人も足を止め、その演奏を聴こうと耳を澄ませている。
黒髪の女性は、その様子を確認したのか一度大きく息を吸い込み舞台役者のように手を振り上げる。
「輝かしい皆様の入学を祝して」
言い切ると、先頭の女性は後ろを向き、右手を上げる。
それに合わせ、後ろに控える生徒たちは各々の持つ楽器を構え女生徒の合図を待つ。
全員が構えたのを確認
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