第1回 惰性のサクソフォン 中編
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し終えたのか、一度うなずきを入れてから黒髪の女性はリズムを取り始める。
黒髪の女生徒の手の動きに合わせて、楽器を持つ生徒を演奏が始めた。
大河ドラマのテーマとして有名であることから、それまで足を止めていなかった新入生たちもその演奏を聴こうと足を止め始める。
すごーい、だとか、これしってるーといった感想がチラホラと聞こえる中、
惰性ではあるものの3年間楽器を続けてきた和樹にはそれらとは、別の感想が生まれた。
「うわぁ、これは…」
お世辞にも、上手とは言えない演奏なのだ。
3年間、惰性で楽器を続けてきた和樹をしてそう感じさせる腕前。
音はそろっていないし、そもそも合わせようとする意思すら感じられない。
つまり下手なのである。
「だめだ、こりゃ…。」
和樹と同じような感想を感じたのだろう、そんな声が隣から聞こえる。
その声を聞き、和樹はチラと横目にそれを伺う。
「あ。」
そこにいたのは、先ほど桜並木で見かけたポニーテールの少女だった。
桜並木に、校門と距離は離れていないもののこの短時間に二度も見ることになり、和樹は驚く。
それと同時に、小さな違和感を感じた。以前にどこかで会ったような既視感を。
和樹が小さなことに頭を回している間に、吹奏楽部の演奏はいつの間にか終わっていた。
それを合図に今まで足を止めていた新入生たちも移動を再開し、一様に入学式の会場へ歩き出す。
先ほどの少女も、気づけば居なくなりその場には和樹ただ一人が残される形になっていた。
「まぁ、いいか。というか、部活どうしようかな…?」
そうつぶやくと、和樹も先行く生徒に続き入学式の会場へと向かうのだった。
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どの高校でも行われるような学校長から話や、在校生による新入生への祝いの言葉などなどごくごく普通のプログラムを経て、入学式は滞りなく終わった。
その後は、自身の教室で行われるホームルームを受け、今日は下校となる。
しかし、彼ら彼女らは社会に対して無意味に反抗し自分自身の主張を強くしたがる高校生なのだ。
静かに指定された席に座り、担任教師の到着を待つなんてことは、当然できるわけない。
教室内はすでに、幾つかのグループができつつあり室内がざわざわとした喧噪の中にあった。
和樹も例に漏れず近くの男子と談笑に勤しむ。
「中学では部活何やってたん?」
「吹部。お前らは?」
「俺も吹部だわ」
「すげー、俺も吹部ー!?」
初対面では、よく使われるだろう部活トークから始まり徐々に中を深めていく。
特に和樹の近くの席にいた塚本秀一、瀧川ちかおとは吹奏楽部という共通点もあり、仲良くなるのにさほど時間はかからなかった。
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