折れ曲がりストレート
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解らない人には本当に解らないもの。それがラクサスに通じたとは、欠片だって思っていない。
(だって、不愉快だったんだもの)
あれ以上を語る気はなかった。それは自分の心の奥の奥を曝け出すようなものだと思ったし、ラクサスはそうしてもいいと思える相手でもない。そもそも、ティアはそういった事が得意じゃない。
(私は一度だって、アイツを色眼鏡で見た事なんてないのに)
誰にも吐き出さず、吐き出せず、吐き出す気のない胸の内。
(アイツは、周りはみんな自分を色眼鏡で見てるとでも思い込んでるみたいで)
これまでも、きっとこれからだって、奥の奥に仕舞い込んでおくであろうそれ。
(だから、私は)
きっとこれは、誰にも理解されない。きっと、正しい事ではなかった。相手が傷つくのを解った上で、相手が嫌がるのを知った上で打った手は、間違い以外の何物でもなかっただろう。
ただその頃は、その時は、ティアに出来る精一杯だったのだ。
(そんな思い込みを、打ち破ってやりたかった)
祭囃子が遠ざかる。
まとめた荷物を肩から下げて、次の行き先を目指して足を進めていく。
「……」
懐かしい顔だった。ああして二人で話すのは、何年ぶりだっただろう。あの時何かを間違えてしまってから、彼女の声でああ呼ばれるのがどうにも嫌で、次第に会う事すら不快になっていた。
今なら解る。間違えたのはこちらだった。肩書きで見るな、血の繋がりで見るなと言っていたのは自分なのに、それを彼女に押し付けた。無意識とは恐ろしいものだと、思わず笑う。
「…ああ、言い忘れちまったな」
七光り、と彼女は呼んだ。その呼ばれ方をこちらが嫌っていると知った上でそう呼んだ理由を、彼女は多く語らないまま。一言二言呟いて、用は済んだと言わんばかりに立ち去っていった。言葉が足りない、なんてものではないだろう。あれでは、伝わるものも伝わらない。
(相変わらず簡潔すぎんだよ、お前は)
けれど、けれど、だ。
付き合いは浅けれど十数年、それだけ知り合いでいれば解ってしまう。長い付き合いのせいというか、おかげというか、ラクサスにはあれだけでも十分すぎる。
「ティア」
あの真っ直ぐな目を思い出す。彼女の、青い目だ。
「お前はお前なりに、やれる事をやってくれたんだな。……とんでもなく、回りくどい手だったが」
――――ありがとな、と唇の動きだけで呟いて。
思い出したあの目には、誰の姿も重ならない。
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