折れ曲がりストレート
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いよ、ラクサス!」
何故、こんな風に焦っているのだろう。逃げそうな手をこちらから掴もうとするなんて、どうして。
訳の解らないままのティアに、足を止めたラクサスは、うっすらと笑って言った。
「お前が、アイツの妹だからだよ」
嫌な事を思い出した。別に彼が自分越しに誰を見ようが知った事ではないけれど不快だと感じ、マスターの孫だと見られるのを彼が嫌うのと同じそれ。
「ティア?」
「……ああ、理由ね。私がアンタをああ呼んだ理由」
ぼんやりと遠くを見つめる姿に違和感でも覚えたのだろう。どこか不思議そうな声色で問われたティアは、膝を抱えたまま目を伏せる。
理由がある、と言ったのは自分だ。けれどそれは、わざわざ語る程のものでもない。ただ少し気に入らなくて、歯向かってやりたくなった程度のものなのだから。
だから、ここで並べて彼を納得させられるようなものなんてない。いくつか言葉を選んで、ぽつりと呟く。
「私が、兄さんの妹じゃないから」
膝を抱えていた腕を解き、立ち上がる。
顔は向けないまま、もう一度。
「アンタがマスターの孫じゃないとの同じよ」
念を押すようにそう言って、答えは聞かずに、ティアはベンチを後にした。
「おかえり、ティア。仕事はどうだった?」
家に着いたのは、丁度夕食の準備を始めるような時間だった。愛用のエプロンを付けたヴィーテルシアが玄関までぱたぱたと駆けて来るのに「ただいま」と返して、ブーツからスリッパに履き替える。
「アンタ、熱は?もう起きて大丈夫なの?」
「ウェンディがわざわざ来てくれてな、治癒魔法をかけてもらったからもう問題ない」
今日の夕飯はシチューだぞ、と言い残して、足早にキッチンへと戻って行く。火を点けたまま迎えに出てしまったのだろうか。多少失敗してもヴィーテルシアの作るご飯は美味しいので、あまり気にはならないのだが。
玄関からリビングを抜けて、するするとジャガイモの皮を慣れた手つきで剥いていくヴィーテルシアをちらりと見てから、二階に上がる階段を一つ分上がる。もう一段上がる前に、一言かけておく事にした。
「少し部屋で休むわ。…あと、病み上がりなんだから無理はしないでよ」
「……解った。夕飯の支度が出来たら呼ぶ」
付け加えられた言葉に、歓喜のあまり野菜を切る手元が狂いそうにもなっていたが、それをティアは知らない。
ぼすん、とベッドに腰かける。そのまま体を横に倒すと、手探りで掴んだ枕をぎゅっと抱きしめた。枕に顔を埋めるようにして、目を閉じる。
あの理由に、彼は納得しただろうか。考えて、そんな訳ないと一蹴する。だって、告げた理由には中身がないのだ。空っぽで、
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