巻ノ六十四 大名その三
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「まだ信じられぬ、しかし」
「しかし?」
「しかしとは」
「御主達はどう思うか」
己の前で湯に入っている十人に問うた、無論彼も湯に入っていてそのうえで心も身体もくつろがさせている。
「それで」
「そうですな、殿が大名ですか」
「凄いことですな」
「我等も信じられませぬが」
「しかし」
それでもと言うのだった。
「よいお話です」
「殿にはそれだけのものがあります」
「これまで武勲も挙げておられますし」
「大名になられるに相応しいだけの」
「では受けられるべきかと」
「大名になられるべきです」
「そうか、ではな」
十勇士達の言葉を受けてだ、雪村はあらためて考える顔になった。
そのうえでだ、こう彼等に言った。
「受けるか、この話」
「そうされますか」
「万石の話、受けられますか」
「そして大名になられますか」
「拙者自身の禄はいいが」
しかしというのだ。
「その方が御主達も禄が増えてよいしな」
「いやいや、我等こそです」
「禄なぞどうでもよいです」
「今のままで充分です」
「むしろ殿こそがです」
「禄を多く受けられるべきです」
「拙者は雨露や凌げる家と多少の飯と酒がありじゃ」
幸村は十勇士達に己の価値観を述べた。
「服があればな」
「それで充分ですな」
「殿の場合は」
「左様ですな」
「贅沢には興味がない」
それも全くだ、彼の場合は。
「地位だの官位だのにもな」
「そして宝にもですな」
「銭にも富にも興味がない」
「それが殿ですな」
「そうした欲とは無縁ですな」
「どうもそうしたものには何も感じぬ」
それも一切とだ、また言った幸村だった。
「だからな」
「大名になられずともですね」
「殿としてはよいのですな」
「禄や地位、宝ではなく」
「別のものですな」
「道ですな」
「武士の道は進み極めたい」
これこそが幸村の目指すものだ、彼はこれに生きているのだ。
だからだ、大名についてはこう言うのだ。
「しかし、そうしたものはな」
「関心がないですか」
「これといって」
「そうなのですな」
「どうもな、しかも御主達も禄がいらぬ」
義兄弟でもある彼等がとだ、幸村は十勇士達にまた述べた。
「ではどうするか」
「しかしお受けになられるべきです」
「それだけ殿が認められたということですから」
「大名に相応しいだけの方と」
「ですから」
「拙者も認められることは嬉しい」
これはとだ、幸村も述べた。
「そのことはな」
「では」
「受けられますか」
「そうされますか」
「その方がいいやもな」
こう言うのだった。
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