7. それは神様だった 〜電〜
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違うものだった……はちみつが練り込んであると思われる生地の優しい甘さと香り……そしてその生地に隠れていた、甘みが絶妙なあんこ……口の中に入れた途端にこってりとした甘みが口いっぱいに広がるが……
「……」
「……」
飲み込んだ途端、その甘みは口の中からスッキリと消えた。後に残るのは、どら焼きがそこにいたのだという、甘い香りと美しい余韻……まるで、とってもキレイな人が歩いたあとのような甘くてキレイな残り香……天龍さんの言いたいことが分かった。これは神様だ。どら焼きではなく神様なんだ。神様が私たちにくれた、天国の食べ物なんだ。神様は、いつもこんなに美味しい物を食べているんだ……
「……」
「……」
私は実感した。人は、美しいものと出会った時、感動を抑えられないということを……真に尊いものと相対した時、涙が止まらないということを。涙が止まらない。感動が抑えられない。
「ずず……あー……どら焼きのあとのお茶ってうめーなー……」
『キャッキャッ!!』
私と集積地さんがどら焼きの余韻に浸っていた時、私達に背中を向けた天龍さんのこんな声が聞こえた。
「ほらよ電。集積地も」
天龍さんが、私と集積地さんにお茶が注がれた湯のみを持たせてくれる。私と集積地さんはしずしずとその湯のみに口をつけ……
「「ずず……」」
「……」
「……」
「「……!?」」
私は苦いお茶が苦手だ。だから赤城さんや司令官さんが苦―いお茶を飲んでいるのを見て、『大人になったらあんなに苦いものを飲まなきゃいけないのか……牛乳でいいのに……』と常々思っていたが……今日、私はそれを改めようと思う。天龍さんが渡してくれたお茶のこゆい苦味は、口の中に残るどら焼きの甘みと混ざり合って、さらに美しい余韻となって私の口の中で輝きをました。
「集積地さん……」
「イナズマ……」
「世界はこんなにもキレイなのです……」
「そうだな……世界はこんなにも美しい……」
心が動くとは……感動するということはこういうことなのか。涙が止まらない。世界の真の美しさを垣間見た私と集積地さんは、ただひたすらに涙を流し続けた。
お茶が口の中をさっぱりとさせたその直後、私はあることに気付いた。
「……消えちゃったのです」
「……だな……消えちゃったな」
そう。余韻が消えた。どら焼きの余韻がキレイサッパリと消えた。それは、桜の花が散った時の寂しさに似ている。どら焼きの余韻が消え入る瞬間の美しさは、まさに風に乗って美しく散る桜の花びら。その瞬間はとてもキレイだ。でも、その後に残された私たちの胸に訪れるのは寂しさ。もうあの美しさを見ることは出来ない……次の機会まで待たなければならないという寂しさ。
この寂しさを解消する方法を
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