7. それは神様だった 〜電〜
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いたい……この香りに包まれていたい……私たち三人+妖精さんたちと子鬼さんたちは、どら焼きを囲むように円陣を組み、時間も経つのも忘れてただひたすらその香りを胸いっぱいに取り込み続けた。
香りを存分に堪能するために閉じていた目を、私は静かに開いた。途端に私の視界に飛び込んでくる、黄金色に輝く魅惑のどら焼き。どら焼きたちは、私たちの耳元でこう囁き続けていた。とってもかっこいい、イケメンな声だった。
――俺が欲しいんだろ? いいぜ お前と一緒に一緒に堕ちてやる……
「よーし! 一個目は俺が……!」
聞こえるはずのない誘惑に負けたのか何なのか……天龍さんはどら焼きの一つに手を伸ばしそれを口に運んだ。口を『ぅぉああーん』と大きく開け、どら焼きの半分以上を口にいれ、食いちぎって丹念に咀嚼している……
「んー……」
「どうだ!? どうなんだ!?」
「……」
「天龍さん! このどら焼きの味はどうなのです!?」
口の中に入れたどら焼きを静かに味わう天龍さん。その天龍さんの両目から、一筋の涙がこぼれ落ちていった。
「天龍さん!?」
「な、泣くほどなのか……そうなんだな!?」
天龍さんは、ただ涙を流しながらどら焼きを味わっていた。こんな天龍さんは初めて見る……
「おい電……もぐもぐ……集積地、やべえぞこのどら焼き……」
「ど、どうやばいのです?」
「俺が今まで食ってきたどら焼きって……何だったんだろうな……もしくは、今俺が食ってるこれ、どら焼きじゃなくて何なんだろう? ……もし、神様がこの鎮守府に遊びに来たとしたら、このどら焼きはきっと、その神様の手土産なんだろうな……」
感極まっているためか、天龍さんは何やら意味がよくわからないことを言いながら、丁寧にどら焼きを咀嚼して味わっている。いつもは荒々しい言動の天龍さんが『神様』なんて言葉を口にしているあたり、このどら焼きは相当に美味しい代物のようだ。
「わ、私も食べてみよう……」
「ああ、食ってみろ集積地」
「い、電も……」
我慢の限界だ。これ以上のお預けはもう耐えられない。私と集積地さんは二人で一緒にどら焼きを手に取り、そして同時に口に含んだ。同じタイミングで子鬼さんたちと妖精さんたちも、二人で一つのどら焼きをわけあって食べていた。
「はぐっ」
「むぐむぐ……」
「……」
「……」
「「……美味しいな……」のです……」
私はこれまでも、何度か『どら焼き』と称される菓子を食べたことがあった。美味しいものもあった。甘いだけで、いうほど美味しくないものもあった……色々あったが、すべてがどら焼きだった。
だが……今私が食べたこのどら焼きは……いや自称『どら焼き』であるこの何かは、私が知っているどら焼きとは根本的に
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