7. それは神様だった 〜電〜
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ならそれは、許されないことだからだ。そうだ。そんなことをしてはいけない。口に出してはいけない。そんなことをするような悪い子になってはいけないんだ。
「あのさ……」
「天龍さん! 言ったらダメなのです!!」
「これさ……」
「ダメったらダメなのです!!」
「……食っちまおうか」
「そんなことするのは悪い子なのですー!!」
天龍さんが、生唾を飲みながら……罪悪感に抗いつつ、ぽつりぽつりと口を開いていく。ダメだ。いけない。ここでそんな悪いことをしてはいけない。
このどら焼きは、他の誰かのどら焼きなのかもしれないんだ。その人は何日も何日も、この“をだや”のどら焼きを待ちわびていたのかも知れない。辛い日もあっただろう。悲しい日もあっただろう。それでも今日この日……このどら焼きを食べるその日を夢見て、毎日毎日を血を吐く思いで過ごしてきたのかも知れない。私たちがこのどら焼きを食べてしまうということは、その人の夢を壊すことだ。その人の誇りと尊厳を踏みにじる行為だ。
そうやって私が葛藤に苦しんでいた時。集積地さんがポツリとつぶやいた。
「……熱いお茶ならすぐ準備できるぞ」
前言撤回。このどら焼きは、今日私たちに食べられるために生まれてきたのだ。そのためだけにこの世に生を受け、実り、収穫され、調理されたのだ。私の口に運ばれるために、農家のおじちゃんの手によって畑に撒かれ、太陽の光を受けてすくすくと育ち、おばちゃんに収穫され、職人さんの手によってどら焼きとして生まれ変わったのだ。きっとそうだ。そうなんだ。
「集積地さん、お茶を淹れて欲しいのです」
「了解した。可及的速やかに淹れる」
「では天龍さん、電たちは包みを開けるのです」
「おう」
お茶の準備という重大任務を集積地さんに任せ、私と天龍さんはどら焼きを開封することに全力を傾ける。心なしか包みを破る私の手に緊張が走る。それは天龍さんも同じだったようで、天龍さんの手は若干震えてるように見えた。
「いや、さっきまで子鬼のやつをゆらゆらさせてたから疲れただけだよ」
包み紙を剥がし終わった。その中から出てきたのは……
「こ、これは……」
「美味しそうなのです……」
「お茶淹れてきた……ぞ……」
黄金色に輝き甘い芳香を纏った、この世の何よりも美しいと言える奇跡のどら焼きだった……。
そのかぐわしき甘い香りを、胸いっぱいに吸い込む。
「すんすん……甘くていい香りなのです……」
「この匂いがすでに美味しい……すんすん……」
「なんだかずっと嗅いでいたくなるな……すんすん……やべえ」
吸い込む度に、甘い香りが私の口の中に……胸の中に広がっていく。集積地さんが言ったことは正しい。すでに香りが美味しい。ずっと吸い込んで
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