隠れ里
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は常に塞がっていることは知っているだろうに。片手で食える物を持ってこいよ。ようかんとか、きんつばとか大福とか」
「うるさい。旨いものが食いたいなら、食うか読むかどっちかにしろ」
物心ついてからこっち、この台詞を何度くちにしたか分からない。いや、今日はそれより。
「で、夢じゃないなら何だというのだ」
「――――隠れ里、かねぇ」
ひどく歯切れの悪い様子で、奉が呟いた。
「隠れ里?」
あれか、とっぷりと日が暮れた山中で偶然見つけ、歓待されるも山を出ると二度とたどり着けないという。
「人ならぬ者が、人から身を隠すための集落よ。体を持たない存在であれば、里そのものも、幻で構わないだろう」
「…何、云ってんだ?」
奉は言葉を止め、きじとらさんのような目で俺を凝視した。…やめろ、その目つき二人がかりでされると落ち着かない。
「住みつかれたねぇ、お前」
俺の胸元辺りを指でトンと指し、尚も凝視を続ける。
「ここに」
「なんかの比喩か」
「……いや」
茶を一口啜って、奉は顔の前で指を組んだ。こういう時に限って、煙色の眼鏡はこいつの表情を読ませない。
「あいつらは、本家で俺を待ち構えるのはやめたらしい」
眼鏡の奥にほんの一瞬だけ、奉の本当の貌が見えた。…あの梅雨の日、年に一度、生まれるはずだった子供に体を明け渡すあの日に見せる、罪悪感や憐憫がない交ぜになった…その奥にほんの少しだけ宿る、嗜虐の貌。
俺は知っている。
「―――俺に住み着いたのは」
名前を持たない、あの憐れな子供達なのか?そう問い詰めたいのを、俺はぐっと堪えた。巧妙に隠してはいるものの、奉はこのような自分の在り方に『罪悪感』を抱いている。最初からそうなのか、少しずつそうなっていったのかは俺には分からないけれど。
ならば夢だと思わせておけば良かった。なのに奉は踏み込んだ。
奉は俺に云いたい事、否、云わなければならないことがあるんだ。
俺は静かに、奉の言葉を待つことにした。
……奉はふいに書を閉じて、のろりと顔を上げた。
「―――先に、謝っておく。場合によっては」
俺かお前、どちらかが死ぬ。
きじとらさんが、そっと奉の背後に寄り添った。…もし俺が飛縁魔を受け入れていたら、彼女はこんな風に俺に寄り添ってくれたのだろうか。自分でも不思議だが、死そのものは全然リアルじゃなくて、そんな下らない事ばかりが頭をよぎった。
「ピンと来ないな、死んだことないし。それより茶がもう少し欲しい」
声に出してみたら、俺は自分が少し無理をしていることに気が付いた。語尾がかすれた。
「――俺の記憶がない、名前が無い子供達、物理法則を無視したものの動きを当然のように受け入れる…隠れ里は、微妙にお
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